半分本当次回予告
降りしきる雨の中、仮面の男は驚愕の声を上げた。
「バカな……ッ! 貴様は、この俺が倒したはずだ!」
ごうごうと轟く雨に阻まれる事もなく、男の声は朗と響く。虎の仮面に覆われた鋭い視線も、豪雨の幕に遮られる事はない。
その強く厳しい男の声が、瞳が、驚きの色に染まっている。
「あァ、そんな事もありましたね」
だが、対する青年の声はどこまでも軽かった。
己を倒したと叫ぶ壮年の言葉をあっさりと肯定し、その上でへらへらと笑っている。
「『何人目』だったのかは覚えていませんが」
そして青年は、ゆっくりと左腕を構えた。
「まあ、次は僕が殺しますがね」
腕を覆う漆黒の甲は鎧ではない。かといって、男の容姿は鱗を持つ一族のものとも違っていた。さらに言えば、その甲はビーワナが持てる鱗や甲羅とは全く違っている。
まさに鎧の如き、一枚の鋼から削りだしたような甲。
男の識るフェアベルケンの魔法や技術には、こんな法はないはずだ。
ただ一つの例外を除いて、だが。
「陛下!」
「来るな!」
部下の声が出る前に気配で察し、押し止める。
目の前の敵には彼では勝てぬ。そして護りきれる自信もない。
先王麾下のロイヤルガードでさえ、幽かな油断で命を失う相手。
「アークルを、呼べ」
故に、男は部下へとそう命じた。
「アークル……『鬼札』を?」
「彼女の力無しでは、勝てぬ」
その言葉で、ようやく男も理解する。
「では……まさか! 奴が、姫様達も知らぬ……?」
目の前の敵が何者であるのかを。
-戦乱のグルーヴェを闊歩する禁断の敵-
「……なるほど」
男は真紅の仮面の下で、口元をわずかに歪ませた。
「これが貴様の言っていた『敵』か」
剣は折れ、鎧は既に原形を留めていない。鎧の下にまとった帷子は自らの血でまだらに染まっている。
隊は全滅。自らは満身創痍。
そして敵は傷一つさえ負ってはいない。
だが。いや、だからこそ、男は嗤っていた。
そんな絶体絶命の場面。それにさらに追い打ちを掛けるよう、場違いな声が響く。
「どう? お気に召して?」
女の声。まだ少女の域を出ぬ、若い娘の声だ。
あまりに血生臭く陰惨な場面に気が触れでもしたのか、くすくすと笑ってすらいる。
「悪くない」
男の答えはわずか一言。その一言で全てが事足りるほど、女の取引は甘く魅力的な物だったのだ。
「なら、呼びなさいな。この、私の名前を」
この世の地獄を目の前に、娘は高く笑う。
壊れているのか。
いや、無論壊れてなどいない。
強いて言えば、『正しく狂っていた』。
「ならば、俺に力を貸すがいい。我が従者”カースロット”!!」
獣機ではない。
獣機の真、偉大な力のさらに向こうにある真実。
「御意に!」
男達の異変を見、たった一人の敵対者も動きを見せた。
右腕をすいと伸ばし、伸ばし、伸ばし、ゆっくりと構えを取る。
曲げているのではない。そいつには、曲げるべき関節がそもそも無いのだから。
蛸。
まさしくそれは、蛸の触碗。
「あり得ない存在は、闇に還るがいい!」
真の力を手に入れた戦士は、群れ飛ぶ巨大な怪腕に向けて疾走を開始する。
-新たな戦いに目覚める、太古の真実-
「あり得ない存在……ね」
白い霧の中、男は悠然と呟いた。
「それを真似たのは、何処の誰だったかねぇ……」
穏やかに笑い、腕を一振り。
それだけで、視界を覆う白はさらに濃さを増していく。
古の遺跡を覆うそれは、よく見れば霧などではなかった。風に吹かれてゆらゆらと揺れるそれは、霧ではなく無数の繊糸で編み上げられた白い網。
「貴方ぁ!」
その網を剣で払い、男は強く叫ぶ。
スクメギの守りを預けられたのだ。たった一人の侵入者を相手に、退くわけにはいかないだろう。
だが、既に残る守護者は男一人。共に戦うべき仲間は、一人残らず倒されるか忌々しきこの網に絡め取られている。
そんな男の傍らに、並ぶ影がいた。
「ウシャス……お前、戦えないんじゃ……」
ウシャス。男が養女として引き取った、鋼の一族の娘。
「ええ」
左右で違う色の腕で細い剣を支え、少女は凛と呟く。
彼女の真の姿は見上げるばかりの鋼の巨神。しかし、その姿に変わる力は既に喪われていた。今はただの人間の娘として、男の庇護下にある。
「この、姿では」
「……何?」
訝しむ男の手をそっと取り、ウシャスは自らの頬に触れさせた。
「父様。私の本当の力をお貸しします。完全なティア・ハーツと並ぶ、あの者達に対抗出来る、古代よりの遙かな希望を」
-希望の名は……-
「……『超獣甲』」
○
というような予告で新作(続編?)を考えております。前回が巨大ロボット物だったので、今回は調子に乗って変身ヒーロー物(笑)。無論PBM形式で。
1年半後にはグルーヴェの決着は着いてるらしいので、それまでに……だから、前作から半年後くらいからスタートかなと思ってみたり。確かティアハのエピロもそのくらいを想定してたはずだったし。
「やれ」って意見が多ければ、本当にやっちゃおうかなぁとか思ってます。まあ半分は、全席オンラインの活性化企画みたいな意味も含んでますが。