26.南へ 薄紫の荒野を音もなく進むのは、赤い獅子の兜を備えたアームコートである。いつもならあるはずの僚機もなく、今はたった一機で南への進路を取っている。 その操縦席にいるのは、二人。 「アーレス。大丈夫か」 顔の半分を義体に置き換えた男と、このアームコートの本当の主である。 「大丈夫じゃ……ねえよ」 ムツキの拳を受け、身体の大半は動かない。生命維持関係の損傷はないようだから、致命傷ではないだろうが……いずれにしても深手である事には変わりない。 「けど……助かったぜ、キララウス」 正直な所、キララウスがアーレスを助けてくれるとは思っていなかったのだ。隊の部下をメガリの兵達に押さえられ、もはや囚われの身となる事を覚悟していたのに……。 「環が裏切りやがったからな。……どのみち俺も終わった身だ。こうなったら逃げられる所まで逃げるしかない」 環がいなければ、アーレスに全てを押し付けるという選択肢もあっただろう。しかし内情を知る環がアレク側のスパイだったとすれば、そうも言ってはいられない。 むしろあの混乱の中で、アーレスの機体が使えただけマシだったと言えるだろう。 「とりあえずどこに行く?」 整備は終わってこそいるが、アームコート一機でそうどこまでも行けるわけではない。動力源となる黒王石の問題もあるし、そもそもソル・レオンはそれほど燃費の良い機体ではないのだ。 移動だけに絞るにしても、無補給で王都や蘭衆まで辿り着く事は難しいだろうし、もっと言えばその着用者達の燃費はさらに悪い。 「……ひとまず、スミルナにでも逃げるしかないだろうな」 清浄の地で食料と水を確保してから、改めて滅びの原野を越える。 恐らくソル・レオンは、滅びの原野を越えた辺りで乗り捨てる事になるだろう。 「くそ……っ。そうするしかないだろうな」 苛立たしげに吐き捨てて、キララウスは進路を南へと切り替えるのだった。 |