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ネコミミ冒険活劇びーわな!
ティア・ハーツ
第4.5話「続きの番外」(後編)

「うふふっ、みんな何か企んでいるみたいですわね。」
 クリルラとティア・ハーツの戦いを、舞台の上から楽しそうに眺めているハイニ。
「技連携を魔法連携でバーストさせるようだな。
 これは互いが余程信頼しあっていなければできない芸当。短期間でここまで理解し合えるのは、別段ティア・ハートの力だけではあるまい・・・。
 シーラ、いい若者たちを見つけたな・・・。」
「なっ…。」
 ハイニの背後から独り言とも思える男の声が聞こえ、彼女は信じられないといった顔をする。
 自分が、にんじんジュースを飲みながら、観客気分で観戦していたことは確かだ。しかしそれでも第三者の介入を避ける為、体育館中に結界を張り、侵入者の発見に神経を尖らせていたはずだった。
 そんな自分が、背後を取られるまでこの男の侵入に気づかなかったなんて…(しかも自分で見つけたのではなく、相手が声を出して初めて存在を知ることが出来たのだ)。
 一体どんな男かと振り向くことは…ハイニにはできなかった。
 身体が…ガクガクと震えて動けない…。全身から玉のような冷や汗が吹き出ている。
 この男、喋る直前までは全く気配を感じさせなかったのに、その存在を示した途端、ハイニにとっては息が詰まるほどの存在感(オーラ)を発露しはじめたのだ。
 威圧…とでも言うのだろうか。少しでも動いたら殺される、といった強い冷たい殺気ではない。そんな低次元のプレッシャーではない。むしろ温かい程だ。だが、その人物が目の前にいるだけで勝てない、とわかる程の圧倒的な実力差をハイニはオーラだけで感じてしまったのだ。
 こんな感覚は、あの時以来ですわ…。
 ハイニは「あの時」を思い浮かべる。同時に、さっきの声がどこかで聞いたことがあることも思い出した。
 それは…ハイニがアリスのプリンセスガードとして、初めて王宮に上ったあの日…。
 アリス姫様に手を引かれ謁見の間に通された自分は、そこで初めてある人物を間近に控えることが許された。
「お父さま、こちらがあたしの新しいプリンセスガード、ハイニ・ランダールですわ。」
 アリス姫様からそう紹介された後から、自分の記憶のほとんどは断片的にしか覚えていない。
 それが現・国王、タイガ・ガ・コーココ陛下との初めての謁見であった。
 形式的な自己紹介はした覚えがある。
 国王様からいくつかの質問を受け、答えた覚えもある。
「顔を上げてもいいのよ?」
 アリス姫様から悪戯っぽくそう言われた事も記憶している。
 わかって言っているのだ。自分が国王様の存在に圧倒され、全く動けないでいることを。
 二人に試されているということはわかっている。でも何も出来ない。悔しい、悔しい、悔しい…。
 そんな過去の感覚と全く同じ感覚を、ハイニは今、この体育館で感じているのだ。
「あ…う…。」
 頑張って声を絞り出すが、呻き声にしかならない。
「やはり戻って来ましたか…。」
 聞き覚えのあるセンの声が聞こえ、ハイニは少し安堵する。彼はハイニの座っている舞台の上に上がり、男の元へと歩いていく。
「…。」
 男は無言でセンの方へ顔を向けた。
「そろそろ、話してもらってもいいのではないですか?」
 センは男に向かって言葉を続ける。
「…虎仮面さん。いや、ココ王国、国王陛下…。」


つづく

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