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ネコミミ冒険活劇びーわな!
ティア・ハーツ
第4.5話「続きの番外」(後編)

「くっ…。」
 轟音と共に発射された弾頭を、壁に隠れていたセンは辛うじてよける。クリルラの目には、センの同化能力も通じないようだ。
「オールレンジからの攻撃に対処でき、不意打ちも効かない…。まさに歩く要塞ですね…。」
 リィレスはちらりとマリネを見る。彼女はつまらなそうに、ぼーっとクリルラの動向を目で追っていた。
「何を考えているかわからないけれど…。」
 リィレスの視線の先を見て、ハイニは助言のつもりで口を出す。
「クリルラは所詮人形。その人形の操糸者(そうししゃ)を断つという考えは悪くは無いけれど、ああ見えてもマリネの強さはクリルラの比じゃないですわよ。」
「つまり、まずは目の前の相手に専念しろってことですね。」
「…というか、クリルラに手こずるようでは彼女に勝とうなんておこがましい…ということよ。」
 相変わらずセミファスはシビアだ。だが、それが真実でもある。
「やるしかないですね…『魔法連携』を…。」
 ピュウイも覚悟を決めたようだ。
「やりましょう。ラス、エルマくん、大変だけれど僕らが魔法を詠唱し終えるまで人形を足止めしておいてください。」
「おうっ!」
「任せるだっ!」
 二人がクリルラに飛びかかる。
 と、同時にセンとリィレスが詠唱を開始する。
「ダークバースト…。」
「雷華彩波っ!」
 闇の中の稲妻が、融合を始める。

 魔法・連携→神雷!

 クリルラの身体を電撃が突き抜ける。
「これは…魔法連携!?」
 この戦いで、初めてマリネが驚きの顔を見せた。
「ハイニの入れ知恵ね!?」
 彼女はキッと舞台の上に腰掛けている少女を睨む。
「さぁ、何のことかしら?」
 クリルラは、ココの持つ古代科学技術の粋を集められて作られた人形だ。つまり、まだ魔法というものの存在がない(あったとしてもまだ確立されていない)時期の技術を応用しているため、物理攻撃には鉄壁な防御力を持っているものの、必然的に魔法耐性は若干低くなっているわけだ。
 その弱点を、ティア・ハーツが今の戦いだけで見抜くとは…到底考えられない…。
「…が、一撃必殺…とはいかなかったようですね…。」
 リィレスが少し残念そうな顔をする。
 確かに闇の電撃はクリルラの内部を駆け巡り、いくつかのコンデンサーをショートさせ、見た目にも多少動きが悪くなっているものの、決定的なダメージにはなっていない。
「マリネさんの属性が多少なりとも影響しているのかもしれませんね。」
 ピュウイはそう言って、マリネの属性を思い浮かべる。
 ハイニから彼女の属性は「土」であると聞かされている。「土」の強属性は「雷」。彼女の属性が、クリルラに放たれた「神雷」のダメージをある程度レジストしたとしてもおかしくはない。
「だったら、『土』の弱属性である『氷』属性の魔法連携をするしかなさそうよね…。」
 その鍵となる「氷」属性のティア・ハートを持つセミファスの言葉に、リィレスは難しい顔をする。
「そうなんですけれどね…。『神雷』の属性は『雷』でもあるのですが、実は『氷』属性でもあるわけで…。」
 それでレジストされるのであれば…。
「マジックバースト…させるしかあるまいな。」
 センがさりげなくそう言うが、その難しさは誰もがわかっている。
「ねえっ、話し合いは終わったの?こっちはもう抑えきれないよっ。」
 そうなのだ。リィレスたちが話し合っている間も、ラレスとエルマは必死にクリルラと戦っているのである。
「魔法連携でマジックバースト…。
 やってみる価値はありそうですね。」
 これ以上妹達を待たせるわけにはいかない。リィレスは決断する。
「ラス、エルマくん、連携だ。
 セミファスさんは二人の連携の援護に。」
「わかったわ。」
「センさんは僕と魔法連携を。ピュウイくんはその援護を…。」
「待ってください。」
 珍しくピュウイがリィレスの提案に「待った」をかけた。
「魔法連携における闇のパートを、僕に担当させてもらえませんか?」
「しかし、君の属性は光…。」
「光と闇の属性は、他の属性と違い表裏一体。光の詩だけでなく、闇の詩も歌えなければ本当の吟遊詩人とは言えません。」
 そう、旅の途中で出会った、あの少女のように可憐だった吟遊詩人の少年のように…。
 ピュウイは思い出す。
 彼の詩は悲しくせつない闇の色に染まりつつも、小さな光が一筋、強烈に輝いているような印象を受けた。同じ吟遊詩人として、彼の詩は衝撃だった。
 そして自分と全く対照的ながらも、なぜか自分に非常に良く似た感覚をピュウイは感じた。あの感覚を…あの感動を自分が歌うことが出来れば…。
「ならば、これを使うといい…。」
 センが黒い宝石をピュウイに手渡す。
「これは…闇のティア・ハート…。
 でもこれを手放したら…。」
「連携には参加しない。少し…確かめたいことがある…。」
 彼はそう呟きながら、舞台へと目を向けていた。


つづく

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