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ネコミミ冒険活劇びーわな!
ティア・ハーツ
第4.5話「続きの番外」(後編)

(7)
「クリルラっ!」
 マリネの言葉に、黒いドレスを着た等身大の少女人形は無表情ながらも一歩前へ踏み出す。静かな構内に小さなモーター音が響き、体育館の床板がギィっと軋む。
「華奢そうな身体なのに、僕の力では彼女を抱きかかえることは難しそうですね。」
 クリルラの重さで悲鳴を上げる床板を憐れみながら、ピュウイはそう苦笑する。
「でも彼女自身はあまり体重を気にしている様子はないですけどね。」
「ピュウイもリィレスさんも無駄口叩いている場合じゃないわ。来るからっ!」
 セミファスがそう言うと同時に呪文の詠唱に入る。クリルラは二歩目で床を蹴り上げて加速をつけ、腰のレイピアを抜いて跳びかかってきたからだ。
「早いっ!
 …けど、拡散すればっ。フロスティ・レインっ!」
 いくつもの水の飛礫がクリルラを襲うが、自動人形は瞬きもせず、ひるむ様子も無く、水滴を全て肌で弾く。加速が緩むことはなく、一直線にセミファスに向かってくる。
「ちょっと…身体はともかく、服にまで傷ひとつないって…どういうことっ!?」
 …などと言っているヒマは無かったのだが、直前でラレスの剣とエルマの拳がクリルラのレイピアを止めた。
 二人がかりでないと止められない程、人形の力は強い。
 キリキリキリ…。
 とクリルラの首が傾き、エルマの魚眼と視線が合わさる。
「何か…嫌な予感がするだ…。」
 毎日ネコたちと命のやり取りをしているだけあって、エルマの危機察知能力は高い。だから直後、クリルラの目が一瞬赤く光ると、その瞳から収縮された熱光線が発射されたのをエルマは間一髪で避ける事ができたのである。
 が、体勢を崩したエルマの力ではクリルラの力を止めることはできない。エルマとラレスはクリルラに力によってなぎ払われる。
「ぎゃあっ。」
「ラスっ!」
「接近戦が難しいなら、遠距離からの魔法攻撃をっ!」
 リィレスとピュウイが魔法の詠唱を開始し始めたとき、クリルラの両腕が肘の辺りから外れた。腕の中にはいくつもの銃身が円状に設置され、回転できるようになっている。古代の科学が発明した「ガトリングガン」(多銃身機関砲)という兵器である。
「ちょ、ちょっと待って…。」
 もちろん待つはずも無く、無表情で両腕から機関砲を連射しまくる彼女。詠唱を中断し、嵐のような弾丸の中を逃げるリィレスとピュウイ。
 そんな戦況をじっと見つめる目があった。闇に隠れ、反撃の機会を窺う瞳。 
 …しかしクリルラはそれさえも容赦しない。
 彼女の瞳は武器としてだけではなく、赤外線レンズ装着で暗視能力を持ち、サーモグラフィで温度の変化を感知することができるのだ。
 クリルラの隠し腕が背中のランドセルからバズーカを取り出すと、間髪を入れずに引き金を引く。

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