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ネコミミ冒険活劇びーわな!
ティア・ハーツ
第4.5話「続きの番外」(後編)

 そんな友人の危機(?)に気づかないほど切羽詰っていたマリネは、しっかりと友人の手(?)を握り、音楽室の奥へと注意深く進んでいった。目標は、ピアノの上にある体育館の鍵だ。
 ピアノは(ピュウイが次の仕掛けに移ったので)今はもう鳴ってはいない。
 夜になると音楽室にかけてある有名な音楽家達の肖像画の目が動く、歌いだす、または話しかけてくる…そんな噂もあった為、彼女は出来る限り周りは見ず、ピアノだけを見つめ、一直線に進んでいった。
 そして遂にピアノの前に辿り着いたマリネは、そこで異様な光景を見る。
「これは…クリルラ…?」
 ピアノの上には、四体のゴスロリの服を着た人形が、一体ずつ鍵を持って座っていたのだ。
 暗闇であるのと、人形が俯いている為、顔がここでは良く見えない。
「つまりこのうちのどれか一体の人形が本物で、その鍵も本物というわけね。」
 自分の言葉に、後ろのリチェルが何も反応しないのが気にかかるが、マリネはそう言って一人納得をする。
 とはいえ、どれが本物か正直見分けがつかなかった。
 もちろん普段の彼女であったなら、クリルラの細部の細部まで把握しているはずなので(自分が設計し、多くの魔導技術者と一緒に作った人形なのだし)、本物の見分けは容易いことなのだが、今は漆黒の闇の中である上、精神の状態が普通ではないので、冷静に判断することなど出来ない状態なのだ。
 マリネは少し考え、一番右の人形に手を伸ばした。確信はない。ただの勘だ。今の自分には、ピアノの上に並んでいる人形四体全てが贋物に見えた。
 …実際全てがニセモノなわけだが…。
 ムニュっと掴んだ人形は、ちょっと生温かかった。
 そして長い前髪の間から光る爬虫類の目。
「ひっ…!」
 その能面のような顔が、窓から届く月光の薄明かりに照らされる。マリネが選んだ人形は、センだったのだ。
 これは怖い。
 ただでさえ、普段から怖い顔(?)をしているのに、今は深夜。更に女装までしているのだから。
「ぎゃあっ!」
 センを思い切り放り投げたマリネは、反射的に背後のリチェルに抱きつく。
 …何となくいつものリチェルより冷たい…というか体温の低さが最初に気がついた。そういえば、彼女は自分より小柄なはずなのに、普段は自分の胸元辺りに当たる顔が見つからない。逆に自分が彼女の胸元に顔を押し付け、抱かれている状態なのだ。
 抱かれ心地から、相手が女性であることは間違いないが、リチェルではないことは明らかだった。
 恐る恐る顔を上げるマリネ。
 視線の先には…長い髪を振り乱し、怪しい笑みを浮かべる三つ目の大女がじっと彼女を見下ろしていた。
 その三つの目と、マリネの視線が交わったとき、彼女は本当のゴルゴンに出会ったかのように、石のごとく全く動けなくなってしまっていた。目の前にある恐怖と、親友を…今、唯一頼ることができる人間が、傍にいないという絶望感が、彼女の思考を停止させたのだ。
 文字通り、目の前が真っ暗になっていく。その恐怖と絶望から逃れるために、マリネの本能は最も簡単な逃避行動をとった。
 マリネの全身から力が抜けていく。腰から落ちていく彼女を、長身の女性は慌てて抱き上げた。
「失礼な人ですね、人の顔を見て気絶するなんて。」
 とはいえ、怒っている節はない。その表情からも、本人が好んでやっていたことが伺える。
「まぁ、暗闇で貴女に出会ったら、誰でもとりあえずはびっくりするわよ、ザン。」
 リンクパールから、ティシャのはしゃいだような声がザンの耳に入ってきた。
「そうでしょうか?少なくとも、暗闇で貴女のすっぴんを目撃したときの恐怖に比べれば、まだ可愛い方だと思うのですが…。」
「…そういう冗談にならないような冗談はやめて…。」


つづく

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