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ネコミミ冒険活劇びーわな!
ティア・ハーツ
第4.5話「続きの番外」(後編)

「ん…。」
 目の前の眩しさで、マリネははっと目を覚ます。
 気がつくと、自分は音楽室の椅子を並べられた簡易ベッドの上に寝かされていた。室内も明かりが灯っており、恐怖や不安は感じられない。
 どれだけ気を失っていたのだろう…?
 そう思い身体を起こした彼女の目に、ぴかりと鈍く光る金属が出迎えた。
「これって…体育館の鍵?」
 そう、小さな銀色の鍵が、寝ていた彼女のおなかの上に置いてあったのだ。
 その鍵を握り締めたマリネは、不思議に思いながらも音楽室を後にし、廊下に出る。あれだけ薄暗かった廊下も、今は明かりがついており、自分の行く道を煌々と照らしていた。
 まるで、自分を体育館に導くように…。

 カチャ…。
 体育館の扉は、さっきの鍵で簡単にはずれた。
 ギィィィ…。
 彼女の力ではちょっと重い鉄の扉を開け、明かりの灯る体育館の中へと入っていく。
「アマネさんっ!」
 最初に、彼女の姿に反応したのは、先にこちらにつれて来られていたリチェルだった。彼女の後ろには、ティシャと先ほど会ったザンが立ってこちらを見ている。
「遅かったじゃない。」
 体育館の一番奥…少し段になった舞台の上に腰を下ろしていたハイニが、そう言って立ち上がる。近くには、なぜか複雑な表情を浮かべたエイスが、ぼーっと立ち尽くしていた。
「それは…。」
 マリネは反論しようと声を上げたが、すぐにやめて恥ずかしそうに俯く。
「…わかってるくせに…。」
「アマネさん…。」
 リチェルの声に反応するように、マリネがキッと顔を上げてハイニを睨む。
「そんなことより…決闘するのでしょう?舞台から降りてきなさいっ!」
 マリネの挑発に、ハイニはゆっくりと首を横に振る。
「あたしじゃないわ。戦うのは…この方たちですわ。」
「!?」
 柱の影から、七人の人間が姿を見せる。
 リィレス、ラレス、ピュウイ、セン、セミファス、エルマ、そしてサモナ…ティア・ハーツの面々である。
 先ほどのマリネの意識が途切れたとき、彼女の魔力も途切れ、彼らは人間の姿に戻ることができたのである。そして、たぶん虎仮面も。
「神様は…神様じゃなかった…なのだ…。」
 そんな彼らを、エイスは困惑した表情で見つめている。エルマは肩に乗っていたので、元に戻ったエルマに彼女は潰された格好になる。だがエイスにとっては潰された痛みより、心の痛みの方が大きかった。
「貴方たち…。ハイニっ!貴女、この人たちが何者かわかっているのっ!?」
「わかっていないですわ。でも…それは貴女もでしょう?マリネ。」
「シーラ様に…貴女は逆らうというの?」
「確かにシーラ姫様はアリス姫様の姉姫様ですわ。でも、あたしはアリス姫様のプリンセスガード。姫様には自由に行動して構わないと言われていますわ。それが例え、国家への反逆行為だとしても…。」
「さすがアリス様のPGなだけあるわ…。」
「シーラ姫様が何かを為さろうとしている事は、アリス姫様も承知しておられますし、実際協力的な行動に移ってもいらっしゃいます。
 そのアリス姫様が、今回の件に何も口出ししてこないということは、あたしの権限で行動していいという事…。」
「口出しって…貴女、この件をアリス様に報告しているの!?」
 そのことは、ティア・ハーツのメンバーたちも知らなかったことなので、一斉にハイニの顔に視線が集まる。
「当たり前でしょう?プリンセスガードとしては当然のことですわ。でなければ、ただのフェ・インの生徒であるあたしが、夜中とはいえこの国家機密に匹敵する大陸最高峰の魔法機関を管理する権限を持つことなんて出来ませんもの。」
「あの…。」
 対峙する二人のプリンセスガードの間に、ラレスがすまなそうに入ってくる。
「お話が良くわからないんですけど…。何か、あたしたちが放置のままストーリーが進んでいる気がして…。」
 うん、それは的確な状況判断だ。
「そうね、結論は…。」
 マリネは今度、ティア・ハーツに顔を向ける。
「貴方たちを再び捕まえることよ。」
 彼女の魔力が高まってくる。ティア・ハーツも迎撃の構えを取る。
「なら、これを返すわ。」
 ハイニは抱えていた小さな人形を投げて返す。
「クリルラっ!」
 この明るさなら、その人形が本物であると確信できる。
「それを使わせてあげるのだから、1対7のハンデは大目に見なさい。」
「構わないわ。クリルラが使えるのであれば、七人だろうが百人だろうが負ける気などありはしないっ!
『破裂の人形』っ!」
 マリネの言葉に反応してクリルラが光に包まれると、やがて人形の中に隠された魔導機械の封印が解け、等身大の魔導人形少女が彼女の隣に立ち控えた。背丈も格好もマリネに良く似た人形だ。
「この『破裂の人形』は獣機の少女を研究して作られた、擬似獣機とも言えるココ王国の歩く国家機密。私が設計し、魔導科学工廠が開発した魔導科学の力、思う存分見せてあげるわっ!」


つづく

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