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ネコミミ冒険活劇びーわな!
ティア・ハーツ
第4.5話「続きの番外」(後編)

「むぅ、あの娘、あれでも陥落しないかぁ…。」
「さすがPG…といったところでしょうか。」
 リチェルの肩を借りながらも、何とか三階への階段まで歩いていくマリネの背中を見送りながら、ラレスとピュウイは悔しそうな顔をする。
「仕方ないわね。あの作戦をするしかないわ。」
 一階にいたセミファスとサモナも、ラレスたちと合流する。
「了解っ!…ってことで、ピュウイくんたちはこの作戦には絶対ノータッチだよ。もちろんセンさんやリィル兄も。」
 ラレスは影に隠れているであろう人物と、通信を聞いているであろう人物にも釘を刺す。
「わかりました。では僕たちは先に音楽室に向かい、最後の仕掛けの準備をしていますよ。」
 そう言ってピュウイは、サモナと共に彼女たちから離れていった。センもたぶん、二人に付いて行っているのであろう。気配が消えたような気がした。

 あはははは…。
 うふふふふ…。
「そういえば七不思議で思い出したのですけど…。」
「だから今思い出さないでよっ!」
 三階への階段をやっとの思いで昇っているマリネの隣で、リチェルがまた嫌なことを思い出す。
「この階段って普通は12段しかないのに、夜になると13階段になるって噂ですわ。数えてみましょう。いーち、にー。」
「い、いらないことをしないでーっ!」
 しかしリチェルは数えることをやめない。
「じゅういーち、じゅうにー・・・。」
 二人の足が、もう一段の段差を昇る。
「・・・じゅうさーん。」
「ひぃぃっ!」
「もう、アマネさん過敏すぎますわ。ただ、段差が一段作られただけじゃないですかぁ。」
 リチェルの言う通り、ただ単に木で作られた階段と同じ高さの台が置かれていただけなのだ。
「わかってるならわざわざ報告しないでよっ!」
 それはごもっとも。
 とにかく、遂に二人は三階にたどりついた。廊下の先には目的の音楽室が、その手前には楽器などが仕舞ってある音楽準備室が見える。階段を昇り終えたマリネは、リチェルの肩から手を離した。
「大丈夫です?」
「階段を上がれば、後は一人で歩けるわ。」
 そう言って一歩彼女が踏み出した途端・・・。
 バシャッ!
 マリネの上から降り注ぐ水、そして・・・。
 ガコン!
 落ちてくるバケツ。
「アマネさんっ!」
「・・・。」
 全身びしょ濡れになった彼女はもう、悲鳴を上げる気力さえない。
「あら?」
 リチェルは音楽準備室の前に置いてあるものに目がいった。
「服ですわ。それに何か紙が・・・。」
 まるでマリネがびしょ濡れになることをわかっていたように、着替え用の服、身体を拭くためのタオル、下着の他に一枚の紙が一番上に重石を乗せて置いてあった。
「これは・・・ハイニの文字ね・・・。」
 まだバケツをかぶったままのマリネが、その紙に書かれた文を読み上げる。
 −武士の情けよ。 ハイニ−
「別に何か仕掛けられている・・・ってことはなさそうですわ。濡れたままだと風邪ひいちゃいますから、着替えた方がいいですわ。」
 リチェルはハイニが用意してくれた服を丹念に調べた後で、ぽふっとその着替えをマリネに手渡す。
「・・・わかったわ。まだちょっと心配だけど、とりあえず着替えてくる・・・。」
 マリネはリチェルから着替えを受け取ると、音楽準備室へ入った。リチェルが着替えを手伝ってあげると言っていたが、女同士とはいえ、友人の前で下着姿になるのもちょっと気が引けたため、外で待ってもらうことにした。
 楽器ばかりが置かれた部屋の中で、黒い上着、フリルのついたスカートを脱ぐマリネ。温暖なココ王国なのだが、心なしか肌寒く感じるのは水をかぶったせいだけではないだろう。ハイニの用意してくれた服はハイニ自身のものらしく、ちょっと彼女より背の高い自分のことを考えてか、多少ゆったりしたものを選んでくれたみたいだ。下着も用意してあるが(そして実際に下着まで濡れてしまっているが)、友人の下着を身に着けるには多少抵抗があったし、さすがにそこまで無防備にもなれなかったので(今でも十分無防備な姿なのだが)、上着だけ借りることにしたらしい。
 ただ、下着を胸元に当てて比べてみて、「勝った・・・。」と言ったとか言わなかったとか・・・。


つづく

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