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ネコミミ冒険活劇びーわな!
ティア・ハーツ
第4.5話「続きの番外」(後編)

「目標は二階に移動中。」
 闇に紛れたセンから、再び報告が送られる。
「了解。ラス、ピュウイ、予定通りに頼む。」
「わかったよ、リィル兄。」
「こちらは準備できています。」

 うふふふふ・・・。
 あはははは・・・。
 風に流れて、少女の声が聞こえてくる。
「あらぁ、誰かが私たちを見て笑っているのかしら。」
「あーあーあーっ!何も聞こえないわー。」
 マリネは耳に手をあて、大声を上げて聞こえないようにしているらしい。
「アマネさん、そんな子供みたいな真似しなくても・・・。」
「わ、わかっているわよ・・・ぎゃあっ!」
 べちょ・・・っと冷たくやわらかいものが顔にくっついた。思わずはしたない悲鳴を上げてしまったマリネ。
「もう、脅かさないでください。ただのコンニャクじゃないですか。」
「だからなんで“ただのコンニャク”が廊下の上から降ってくるのよっ!」
「・・・アマネさん、楽しいのはわかるけど、いちいちそんなに過剰な反応していると最後まで持たないですわ。」
「どこが楽しそうに・・・。」と言いかけて彼女はやめた。本当にリチェルはこのKey Modeを楽しんでいるように見えるからだ。
「うふふ、次はどんな仕掛けがあるのかしらー。」
 リチェルの顔には笑みさえ見える。その笑みが、マリネにとっては幽霊よりも空恐ろしく感じたのは、たぶん錯覚ではないだろう。
 そんなやり取りをしつつ、二人は二階の理科実験室の前を通る。こういうイベントへの彼女の嗅覚は鋭い。
「ふふ、ちょっと見てみません?
「貴方、どっからそんな思考が出てくるのよ・・・。」

「来たよっ!」
 実験室の入り口に隠れていたラレスは、扉の隙間からマリネたちがこちらに向かってくることをピュウイに報告する。
「どうやってお二人をこちらに来させるかが問題でしたが…まさか向こうからやってくるとは…。どうやら余程勇気があるか、怖がっていない可能性がありますね。見つからないように注意しないと。」
 そう警戒するピュウイには悪いが、もちろん楽しんでいるのはリチェルだけだ。マリネは実験室など絶対来たくもないのだが、だからといって一人取り残されるのも嫌なので、嫌々来たようなものなのだ。
「とりあえず、センさんとセミファスさん渾身のワイヤー技術を見せてもらいましょう。」
 センはもちろん、セミファスもテグスを使った仕掛けに慣れていた。これは師匠であるウィスムが彼女に叩き込んだサバイバル術のひとつであった。

「そういえば…。」
 ふとリチェルは思い出す。
「学校の七不思議のひとつにありましたわね。実験室の人体模型が夜な夜なひとりでに動き出す…って。」
 マリネの身体が一瞬引きつるのがわかった。
「な、何そんなこと今思い出しているのよっ!」
 相方が必死に止めるのを無視して、リチェルは化学実験室の扉を開ける。
 ガラガラガラ…。
「あ。」
「こ、今度は何なのよ…?」
「何かが足に引っかかったみたいですわ。」
 そう、それはセンたちが張ったピアノ線のトラップだった。リチェルの足に当たって引っ張られたピアノ線は、次々と連鎖を起こし、実験室奥に置いてあった人体模型を引っ張り上げる。が、仕掛けはそれだけではない。引っ張り上げられた人体模型は、滑車を滑り、ワイヤーの線路を伝って、リチェルが開けた扉に突進していたのである。
 カラカラカラ…という滑車の音に不審な気配を感じたマリネは、恐る恐るリチェルの背後から顔を覗かせる。
 その時であった、目の前に見知らぬ顔が突然現れたのは。男の顔だ。しかも顔の半分は皮脂に覆われておらず、不気味な赤みがかった筋肉そのままをさらけ出している。不気味な…造られた顔…。そう、滑車を滑った人体模型は、そのまま運悪く顔を出したマリネを終着駅にしてしまったのである。
「わぷっ…。」
 人体模型と熱い抱擁をしてしまったマリネは、飛んできた彼(?)共々廊下にまで吹っ飛ばされた。
「ずるいですわアマネさん。私が作動させた仕掛けなのに、アマネさん一人で楽しむなんて…。」
「こ、これが楽しんでいるように見えるのっ!?」
 廊下の真ん中でへたり込んでいるマリネだが、言い返す気力だけはまだ残っているようである。
「どうでもいいですけど、いつまで人体模型さんと抱き合ってるんですかー?」
 そう言われ、自分が不気味な人体模型をずっと抱き枕のように抱きしめていたことに気づいたマリネは、きゃーきゃー言いながらその模型を遠くに投げ飛ばした。
「とにかくこの先の階段を昇れば、音楽室のある三階ですわ。」
「ま、待って…。」
 歩を進めようとしたリチェルをまだ座り込んだままのマリネが引き止める。
「腰に…力が入らないのよ…。」


つづく

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