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ネコミミ冒険活劇びーわな!
ティア・ハーツ
第4.5話「続きの番外」(後編)

「本当に部屋には戻らないの?」
 ハイニは、自分とは違う道を帰ろうとするルームメイト、エイスの背中に、そう声をかける。
「うむ。審判たるもの、公正に物事は運ばないといけないのでな。審判と、決闘する人間の一人が同じ部屋にいて、マリネ殿にあらぬ疑いをかけられるというのもお互い嫌であろう?」
「あの娘がそんなことを考えるとは思えないけど・・・。でも、貴女がそう決めたのなら何も言わないわ。好きにしなさい。」
 ・・・時間は、ハイニがマリネに決闘を申し込んだ直後・・・つまり、前回の最後の行の直後に戻る。
 ハイニとマリネとの決闘で、審判を買って出たエイスであったが、さすがにルームメイトであるハイニと夜まで一緒にいることは出来ないと感じたのであろう。
 そのため、今夜零時まで自分は友人の部屋にいる・・・とエイスは提案したわけである。
「あら?そういえば・・・。」
 ハイニは振り返って、エイスの後ろ姿を見つめる。
「あの娘、自分のクラスでは孤立していたみたいだけど・・・今晩、誰の部屋に泊めてもらうのかしら・・・?」
 確かにエイスはその気難しい性格から、クラスでも一段「浮いた」存在だった。でもだからといって友達がいないわけではない。エイスのクラスにもリチェルのようなお節介焼きがいてエイスにつきまとっていたし、演劇部の先輩後輩は、どの人も仲の良い友人みたいなものだ。
 エイスが頼ったのは、そんな演劇部の先輩の一人であった。彼女は今はもう卒業してフェ・インの大学に通っているのだが、エイスは今でも時々遊びに行っているらしい。その先輩も結構風変わりな人物だったらしく、同じ「浮いた」存在同士、何かと気が合ったのだろう。
 まぁその先輩は違う意味で「浮いた」存在だったわけだが・・・。
 コンコン・・・。
 エイスは大学の女子寮を訪れ、その先輩の住んでいるドアを叩く。
 初等部から大学院まで同じ敷地内に隣接しているフェ・インでは、各校の寮も隣り合っている為、学年を越えてプライベートでもいろいろな交流が図られているらしい。だから、高等部のエイスが大学の女子寮を訊ねても周囲は何の違和感も感じないわけである。
 ああ、もちろん交流が盛んだとはいえ、男子寮と女子寮との距離は遥かに離れており、男女間の交流は固く禁止されている。もちろん女子寮は男子禁制である。
 ガチャっとドアノブの回る音がして、キィっとドアが開く。エイスの目の前に(いや、身長の差が40センチも違うから、目の上にというべきか)、長身の女性が現れた。
「おや、エイスではありませんか。一体どうしたのですか?」
「うむ、実は赫々(かっかく)云々(しかじか)でザン殿の部屋に夜まで居させて欲しいのだ。」
 ザン・・・ザンレドリューム=ロゴストリアヌス。この長い名前の女性が、今エイスの前に居る先輩の名前である。
 フェ・インの中でも魔法研究においては高位の位置にある(最高の研究機関はもちろん、大学院であるが)大学の学生である時点で、相当の魔力を持っていることが窺える。
 だがどちらかというと彼女は、研究員というより、研究対象として大学に来ている・・・という感覚の方が強いかもしれない。
 なぜなら彼女は、大陸でも希にしか覚醒しない「天人」の能力を持っているラッセであり、また、この大学でたった一人しか存在しない「空」のティア・ハートを持つ、「空」の魔法使いなのだから。
 天人・・・それは、魔法に長けたラッセが覚醒した、ラッセの祖霊使いのことである。普通のラッセよりも強大な魔力を操ることができ、潜在的な能力も桁違いである。一説にはココ王国のアリス姫も天人ではないか・・・とも言われているが、真偽の程は定かではない。
 そして「空」のティア・ハートと「空」魔法・・・。
 現在、フェ・インで研究されている未知の魔法属性である。今までに発見されていなかっただけの第九の属性なのか?それともザンだけの特異な属性なのか?友好属性、対抗属性は何なのか?それすらもわかっていない謎の属性なのだ。
 現在、数少ないわかっていることといえば、空魔法はどうやら重力を制御する魔法らしいということと、空のティア・ハートを持つものの性格は自由気ままで、文字通り「地に足のついていないような」性格である・・・ということのみ。しかもサンプルがザンしかいないわけで、これが一般的な「空」の特性なのか・・・さえも自信を持って断言できない状態にあるわけだ。
 そんな状況を知ってか知らずかわからないが、ザンは相変わらず気ままに学園生活を楽しんでいるらしい。


つづく

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