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ネコミミ冒険活劇びーわな!
ティア・ハーツ
第4.5話「続きの番外」(後編)

(3)
 ハイニがマリネに決闘状を叩きつけ、自分の部屋に戻った後も、ラレスはセンの腕にしがみついていた。その隣にはセミファスがいる。
「大丈夫?」
「うん・・・落ち着いたから・・・。ありがと。」
 ラレスが泣いている間、センは全く喋らなかったが、セミファスはしきりに声をかけてくれた。
「よかった・・・。」
 セミファスはラレスの手をぎゅっと握る。
「もう・・・ダメかと思った・・・。」
「えっ・・・?」
「・・・ラレスがリィレスさんと喧嘩して、もしあなたがティア・ハーツを抜けるなんてことになったら、私どうしたらいいのかと思って・・・。」
「そんな・・・そんなことないから・・・。」
 水のティア・ハート使いは冷静で状況判断が優れている分、悲観的になりやすい。セミファスは考えられる中で、最悪の状況を想定していたのだろう。
「でも、もし離れることがあっても・・・ずっとアタシとセミファスは友達だよ。」
 ラレスもセミファスの手をぎゅっと握り返す。
「そうよね。」
 彼女にも、いつものクールな笑顔が戻って来た。
(あれ?何でアタシが何時の間にか励ます側になってるんだろう?まぁ、いいっか。)
「仲が良いところに水を差すようで悪いのですが、ちょっといいかな?」
 偵察から帰って来たピュウイが、バツが悪そうに二人の間に入ってくる。
「あら、敵側の人間が何の用かしら?」
 いつものペースを取り戻したセミファスが、相変わらずの口調を見せる。
「いやだなぁ。僕はもし男と女が戦うようになったとしても、最初から女性の味方ですよ。」
 ピュウイも相変わらずの笑顔を見せた。
「それにしても・・・。」
 彼の視線は今度はラレスに向かう。
「ラレスさん、どうしたのですか?お兄さんが心配していましたよ。」
「うっ・・・。そ、それは・・・。」
 言葉を返そうとしたラレスの声が、思わずつまる。はっとするほどの美少年の顔が目の前にあるのだ。動揺しないはずはない。少なくとも、面食いのラレスにとっては。
「あなたねぇ、ふざけているの!?
・・・って、ちょっと・・・センさん・・・?」
二人の間に割り込もうとするセミファスを、センが引き止める。
「ここは彼に任せよう・・・。」
「で、でも・・・。」
 センはまだ納得していなさそうなセミファスをずるずると引っ張って、その場から離れていった。この場にいるのはもう、ラレスとピュウイだけだ。
「さて・・・。」
 両膝を両腕で抱き、ションボリと座っているラレスの隣りに、ピュウイも腰を下ろす。
「話してくれませんか?リィレスさんと一体何があったのか。リィレスさん自身は、全く身に覚えは無いみたいですが。」
「無いって!リィル兄、そんなこと言ってたのっ!!」
 さっきまで泣いていた少女の、いきなりの大声にピュウイはビクッと飛び上がる。
「あ・・・ごめん・・・。」
「その様子だと、ラレスさんには心当たりがあるようですね。」
 ピュウイはすぐに落ち着きを取り戻すと、再び自分のペースで質問を続ける。さすが、女性に関しては立ち直りが早い。
「ううっ・・・。」
 ラレスは長時間の逡巡と躊躇いの果てに、ぽつりぽつりとその小さな唇を開いた。
「アタシは・・・リィル兄を守りたくて剣士になったの。最強の剣士になりたかったのだって、半分以上はリィル兄のためだもん。
 でも・・・リィル兄はもう、アタシを必要としなくなったの・・・。」
「そ、そんなことは絶対無いはずですよ。だって今だって・・・。」
 ピュウイは今現在のリィレスの状態を思い出す。
「だったら・・・だったら何でリィル兄はここにいないの?ハイニさんと一緒にいるからじゃないの?」
「それは・・・そうですが・・・。」
 自分の予想が、リィレスにそのまま肯定されたため、ラレスは再びぐったりと頭を落とす。
「・・・よかったのに・・・。」
「えっ?」
 ラレスの言葉が信じられなくて、ピュウイは思わず聞き返す。彼女は、今度ははっきりとした声で同じ言葉を放った。
「ピュウイくんが・・・本当のお兄ちゃんだったらよかったのに・・・。」

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