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ネコミミ冒険活劇びーわな!
ティア・ハーツ
第4.5話「続きの番外」(後編)

 そんな会話を、廊下に接する教室の影で聞いている少女と魚。
「今の話、聞いただべか?」
「うん。」
 エルマは考える。マリネの魔力も、ハイニの魔力も、自分にはわからないが、ハイニが挑戦状を叩きつけるのであるならば、ほぼ二人の力は互角であろう。ならば、うまくいけばハイニが勝つ、または相討ち、という状況で、漁夫の利が得られるではないか。
「エイス、この決闘、オラたちも見に行くだべ。」
「了解だ。」
 ガラガラガラと教室の扉を横に開き、少女が姿を見せる。
「話は全て聞かせてもらった。」
「エイス!?なぜここに?」
「貴女は確か・・・ジェンダの・・・。」
 驚く二人を無視して、エイスは話を続ける。
「この決闘、儂が審判として仕切らせてもらう。」
「な、何を勝手に・・・。」
「あら、あたしは構わないですわ。」
 ハイニはあっさりとエイスの提案を受け入れる。
「そうですわね。お二人とも負けず嫌いですから、下手をするとどちらかが死ぬまで戦いかねませんわ。二人を見て、制止してくれる方が居て頂いた方が、私も安心して見学できますわ。私だけでは、お二人を止められませんから。」
「見学って・・・貴女も来るつもり!?」
 リチェルの一言に、さすがにそれは二人とも驚きの声を上げた。
「もちろんですわ。私の大事なお友達が戦うのですもの。しかもお二人ともプリンセスガードに抜擢されるほどの魔法使い。これは目に焼けつけておかないと・・・。
 ああ、魔法って素晴らしいですわ・・・。」
 ここまで陶酔しているリチェルには、何を言っても無駄だろう。たぶん彼女は途中で死んでも、幽霊となってやって来るかもしれない。
「では決定だな。」
 なぜか何時の間にか、エイスがこの場を仕切っている。
「今夜零時、フェ・インの体育館でハイニ殿とマリネ殿の決闘(デュエル)を開始したいと思う。」
「逃げないでよね?」
「貴女こそっ!」
 それだけ答え、マリネはハイニの前から立ち去っていった。慌てて彼女の後を追っていくリチェル。
「いいのですか?」
 カバンの中に隠れているピュウイが、心配そうな声を上げる。もちろん、エイスには聞こえない音量だ。
「マリネさんはお友達でしょう?それをこんな形で裏切ることになって・・・。」
「そんなこと、心配しないで。第一、こんなことでダメになる友情なんて、友情ではないわ。それに・・・。」
 だとしたら、いつも戦っていながら、今も仲が良いイルシャナの立場はどうなるの?・・・と続けようとして彼女はやめた。思わずピュウイが同じ学生だと思い込んで話してしまったが、ピュウイが(イルシャナの名前自体は知っていても)、自分とイルシャナが毎日のように剣を交えていたなんて、知っていようもないからだ。
「それよりも・・・。」
 ハイニはエイスの傍に近づく。
「貴女が他人のいざこざに興味を示すなんて、珍しいですわね・・・エイス?」
「いや、ハイニ殿は儂のルームメイトであるし、アマネ殿は同じシーラ様のプリンセスガードなのだから、決して他人ではないと思うぞ。」
 その言動に、ハイニはちょっとびっくりする。
「あら、あたしを友達と認めてくれるのね。でも、ありがとう。」
 エイスは学年が違うものの、クラスで孤立した存在であることはわかっていた。クラスメイトたちのイベントにも参加しないし、それは学校行事に関しても同じだった。
 それが、知人とはいえ、こんな小さな喧嘩に積極的に関わってくるなんて・・・。それでも、ルームメイトがこの作戦に関わってくれることは心強かった。
「でもな・・・。」
 エイスが何か含みを持った笑みを見せる。
「儂の背中を押してくれる神様がいるのも確かなのだ。」
「神・・・さま・・・?」
 ハイニにとって、エイスの口から「神様」という言葉が出てくるのも意外だったが、何より、彼女の笑顔が見られたことが不思議だった。アルカイックスマイルなら、何度か見たことはあるが…。
「うむ…。」
 少女は嬉しそうに話す。
「小さな…お魚の神様がな…。」


つづく

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