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ネコミミ冒険活劇びーわな!
ティア・ハーツ
第4.5話「続きの番外」(後編)

「何で…?」
 ラレスは信じられないといった顔をする。
「何でアタシも連れて行ってくれないの?リィル兄!?」
 時間は、マリネがハイニと出会った少し前に遡る。校内の下見から帰ったリィレスたちは、少しの作戦会議の後、再び返す刀でハイニと一緒に出かけることになった。
「今回は校内の下見とかじゃない。マリネさんに…敵に直接会いに行くわけなんだ。もし見つかったら、人形の僕たちでは為す術がない。そんな危険な場所にラスを連れて行くわけにはいかない…。」
「だったらリィル兄だって行かなくても…。」
「この作戦は僕が考えたんだ。すべての展開…ハイニさんとマリネさんがどのような会話をしたかということも把握していなければいけない。それに…。」
 表面上は申し訳無さそうに、リィレスはハイニを見上げる。
「万が一、ハイニさんが僕たちのことをマリネさんに話してしまうかもしれないしね。」
「あら、信用ないですわね。でも、盲目的に信頼されることよりよっぽどマシですけれど。」
「でも…ハイニさんと二人きりなんて…。」
「いや、念の為ピュウイくんも一緒に来てもらう。万が一見つかっても、ララバイ(子守唄。相手を眠らせることのできる呪歌)である程度の足止めができるからね。」
「そんな意味じゃない…。そんな意味じゃないよぅ…。」
 ラレスはぶんぶんと首を横に振る。声も既に、涙声になっていた。
「行きましょう。早くしないとマリネが帰ってしまいますわ。」
 ハイニは今までの話を聞いていなかったかのように事務的にリィレスとピュウイの人形をカバンに詰め、部屋を出て行こうとする。
「ま、待ってっ!アタシも行く、アタシも行くよぅっ!」
「ダメだ。」
 リィレスは冷たく言い放す。
「なぜです?なぜそこまでラレスさんを拒むのです?」
 今までのやり取りを心配そうに見つめていたピュウイが、ラレスに助け舟を出す。
「わかって欲しい…。僕はラスを・・・みんなを危険な目に遭わせるわけにはいかない。それはラスにもわかっているはずだ。」
 確かに好奇心旺盛で、感情の起伏の激しいラレスに、隠密行動が苦手であろうことは他のティア・ハーツも理解している。下手に顔を出したり、声を上げたりしたら、それはラレスだけではない、リィレスやピュウイに危険が及ぶことにもなるのだ。そしてそれはラレス本人にもわかっていることだった。でも、でも・・・。
「そんなに・・・そんなにハイニさんがいいんだ・・・。」
「ラス、一体何を・・・?」
「お願い、アタシを連れてって!」
「もうっ、時間がありませんのに何グズグズしているの?行きますわよ。」
 我慢できなくなったハイニが強引に二人の間に割り込み、話を切り上げる。何か言おうとしたラレスだったが、ハイニの大きな瞳に見つめられ、思わず目を逸らしてしまう。
「…意気地無し…。」
「なっ…。」
 いきなり投げつけられたハイニの言葉に、ラレスは一瞬声を失う。
「自分の好きな人をも信じる勇気がないのね。」
「キミに…アタシの気持ちなんかわかるわけ…。」
「ええ。わかりたくもないわ、そんな負け犬根性。
 …こんな弱虫が炎のティア・ハート使いなんて…信じられない…。」
「あなたね、いい加減…。」
「いいよ、セミファス…。本当の、ことだから…。」
 ハイニに何か意見しようとしたセミファスを、ラレスは力なく止める。
「ラレス…。」
「…センさん、ラスをお願いします。」
 リィレスの去り際の言葉に、センは無言で頷く。
「待って…待ってよぅ…。」
 追いかけようとするラレスを強引に押さえつけるセン。感情の高ぶっている人間が諜報に出ることは、絶対に避けなければならない。ひとつのことに拘り、周りが見えなくなっているからだ。
 だからそれは、カメレオン族としてそういう仕事をしてきたセンが、今まで培った経験から自然に起こした行動だった。いくら恨まれようと、今はラレスを縛ってでも、彼女が落ち着くまで部屋から出させてはいけない。
 センの腕の中で暴れながら、ラレスはハイニの後姿に向かって必死に叫ぶ。
「リィル兄のバカーッ!リィル兄なんて大っ嫌いだーっ!!」
 自分の腕の中で号泣するラレスを無表情で見つめるセンと、その姿を心配そうに眺めるセミファス。
 二人が、ラレスにかける言葉は…ひとつもなかった…。

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