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ネコミミ冒険活劇びーわな!
ティア・ハーツ
第4.5話「続きの番外」(後編)

(2)
「アマネ(マリネ)さん、ごきげんよう。今日もいいお天気ですね。」
 廊下を歩いていたマリネの背後から、おっとりした女性の声がかけられた。
 その声にマリネの顔が曇る。振り返らなくても誰かはわかる。いつもしつこいくらいに自分の周りに纏わりつく少女だ。あまり人と付き合うのが好きではないマリネは、軽くあしらっても、ちょっときつく言っても、変わらず自分の後をひっついてくる彼女にほとほと困っていた。
 しかし、挨拶をされて返さないのはフェ・インの生徒として失礼に当たるし、無視していると更にしつこく追ってくるのはわかっているから、マリネは渋々身体をターンさせる。
「ごきげんよう、リチェル・リギム・・・さん・・・。」
「あらあら、あらあらあら・・・いつも言ってるじゃないですかぁ。私のことはリチェルで構いませんとぉ〜。」
 そういう馴れ合いがしたくないから、わざとそう言ったのだが・・・。
 家族に愛されて育てられたのだろう。人を疑うという事を知らないこの少女は、マリネの冷たい態度をその性格のせいだと思っているようだった。<実際それもあるのだが。
 とはいえ自分は、「私は貴女が嫌いだからもうつきまとわないで頂けます?」と、クラスメイトにはっきり言えるような礼儀知らずではない。その言葉が人を十分傷つけることをわかっているから。
 昔の自分だったら何の躊躇もせずにそう言い放っただろう。そして更にクラスで孤立していったはずだ。
 その流れを止めてくれたのがドール(イクス)だった。彼は自分の魔力を認めてくれ、強引に自分をプリンセスガードと生徒会に引き込んだ。ドールも他のプリンセスガードも、自分に対して積極的に接するわけでもなく、それでいて無関心でもない、一歩引いた距離を保ってくれた。話すのが苦手な自分にとって、それはありがたかった。
 自分がプリンセスガードになったことで、クラスメイトたちも自分を一目置くようになった。無視したいのに、無視できない・・・そんな雰囲気がクラスにはあった。
 年度が変わり、クラス編成が変わっても、自分の周囲の視線はそう変わるものではなかった。
 が、前年度ではクラスの違った二人のクラスメイトは、そんな中で他のクラスメイトとは違う独特の雰囲気を身に纏っていた。
 一人はハイニ・ランダール。彼女もまた、自分と同じく周りを寄せ付けないオーラを放っていた。それでいて、魔力もアリス姫のプリンセスガードにスカウトされるほど優秀で、容姿も端麗。服装も黒のゴシック調を好んでいることもあり、そこはかとなく自分と似ているような印象を受けた(自惚れなどではなくて)。
 それは向こうも感じていたらしく、ハイニも時々自分を意識しているような素振りを見せていたように思えた。
 が、彼女は他のクラスメイトと趣が違うだけで、直接自分の学園生活に干渉はしない。
 問題はもう一人・・・リチェル・リギムの方だった。
 彼女はそのおっとりしたお気楽な性格で、(強引に)誰とでも仲良しになれた。そして、その魔の手は自分やハイニにも伸びてきたわけである。リチェルはクラスの中で一人になっているクラスメイトを放って置けない性格のようで、何かにつけて自分とハイニに声をかけてきた。
「アマネさん、アマネさん。一緒にお弁当食べませんかぁ?」
「・・・私は学食なの。」
「アマネさん、アマネさん。ここの魔法公式教えて頂きたいのですけど?」
「・・・それくらい自分で考えなさい。」
「アマネさん、アマネさん・・・。」
 あしらってもあしらってもスッポンのように放さないリチェルに、いつも最後は自分の方が折れていた。ハイニに対してもそれは同じだったらしく、何時の間にか自分とリチェル、ハイニの三人で一緒に食事や勉強をするようになってしまった。ハイニもナンダカンダ言いつつも、この展開を楽しんでいるようだった。彼女も心の底では寂しかったのかもしれない。なぜって・・・ウサギは寂しすぎると死んでしまう動物だから・・・。でも、確かにリチェルがいなければハイニとここまで仲良くなることもなかっただろう。


「アマネさん、アマネさん?」
 そこまで考えたとき、ポンポンとリチェルに肩を叩かれた。
「ハィニィさんですわ。」
 見ると廊下の向こうからハイニが歩いてくる。それだけなら別段気にする必要もないのだが、まっすぐこっちを見つめ、何か意を決したような顔つきをしているのが気にかかる。リチェルが自分の肩を叩いたのも、それが原因だろう。
「ごきげんよう、マリネ。」
「・・・ごきげんよう。」
 対峙する二人の少女。緊張した空気が張り詰める。
「前置きは無し。結論から行くわ。」
 ハィニはピシッと人差し指を自分に向ける。
「マリネ、貴女に・・・決闘を申し込むっ!」

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