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ネコミミ冒険活劇びーわな!
ティア・ハーツ
第4.5話「続きの番外」(後編)

「そういう怒りに任せた行動をするから、足元をすくわれるのだ。」
 少女は淡々とした声で、目の前に横たわる青年を叱咤する。
「貴女ねぇ・・・それが年上の・・・プリンセスガードに対する言い方なわけ?」
「・・・祖父の影響でして・・・。」
「・・・。」
 キズだらけの青年は、その一言で黙りこんでしまった。それ程に彼女の祖父の名は大きい。
 ここはフェ・イン・・・王立フェインリール魔法学園の保健室。このベッドに、全身包帯まみれの青年が寝込んでいた。シーラ姫のプリンセスガードの一人、ジェンダである。
 先程の水上音楽堂の戦いで(特に肉体よりも精神的に)ダメージを受けたジェンダであったが、その身体をそのまま病院に連れていく訳にも行かなかった。スキャンダルとそれに伴う騒ぎを起こしたくなかったからである。
 そのため、ジェンダの側近ともいえるフェ・インの演劇部部員たちによって、極秘にフェ・インへと運ばれて来た訳なのだ。
 ちなみに今、ジェンダの看病(?)をしているこの少女も、フェ・インの演劇部の部員で、衣装係を任されている裏方の一人である。だだ少女自身は、裏方だけでは勿体無いような印象深い格好をしていた。セミロングの黒髪の一部を金に染め、左眼には作業用の片眼鏡、両手は白い絹の長手袋に覆われている。14歳という年齢のせいか顔と身体は幼さを残しているが、装飾職人だけあって自分の服装のセンスもいい。そのまま舞台に立てば、十分主役を張れる輝きを彼女は持っていた。
 それでも舞台に立たない理由は、(本人の希望もあるが)彼女がヤモリの遺伝子を受け継ぐ爬虫類系ビーワナであることと、人を寄せ付けない気難しい性格が根本にあるのだろう。
 そして、ジェンダに役者としての面とプリンセスガードとしての面があるように、この少女にももうひとつの顔があった。
 それがプリンセスガードの補佐・・・という仕事。その魔力と血筋の優秀さは十分、プリンセスガードとしての資格を得るに相応しいのであるが、年齢の低さと、そこからくる経験の少なさはいかんともし難く、今はジェンダの傍について、プリンセスガードとしての仕事を勉強しているわけである。
 ・・・もちろん、アリス姫のプリンセスガードはアリス姫に気に入られれば何歳からでも入れるし、シーラ姫のプリンセスガードにも13歳で隊長となったウィスムという例外がいるにはいるのだが・・・。
「まったく・・・。貴女のお祖父様が『あの方』でなければ、貴女のような部下などすぐに辞めさせてやるのに・・・。」
「儂もあのような王侯貴族に取り入って暮らしている者を、祖父だとは思われたくない。辞めさせたければ勝手に解任するがよい。」
 お互いがお互い人付き合いが悪いものだから、決して仲は良くない。が、その分お互い干渉しない立場同士、意外と相性はいいのかもしれない。
「・・・私からの命令よ。ティア・ハーツを・・・私の代わりに見つけ、捕まえなさい。顔はわかっているわよね?水上音楽堂で私と戦った者たちよ。」
「嫌だ。」
 即答。
「儂は自分の領分を越える仕事はしたくないし、儂が見たティア・ハーツは貴公が性別を逆転させた姿。元に戻った姿を儂が知らない以上、探しようが無い。」
 更に今は、マリネによって人形にさせられているのだから、彼らを探すのは酷であろう。実はかなり近い場所にいるのではあるが。
「そう言うと思いましたよ。」
 だがジェンダは、少女の無碍(むげ)な返事に笑みさえ見せた。
「でもこれは覚えておきなさい。ティア・ハートを持つものは魅かれあう。貴女が次に会う人物が、ティア・ハーツかもしれないわよ?」
 バタン。
 少女は無言で扉を開け、出て行く。彼女の胸元には、祖父から贈られたティア・ハートが輝いていた。
「何が『ティア・ハートを持つものは魅かれあう』だ。そんなもの、儂にティア・ハーツを探させ、戦わせるための口実ではないか。」
 胸の魔石をぐっと握りしめる。忌々(いまいま)しい石だ。少しくらい魔力を増幅できるからといっても、圧倒的な力・・・祖霊使いの前では、赤子同然ではないか。
 少女はティア・ハートというものに、全く興味は無かった。いや、嫌悪さえしていた。ヤモリの尻尾と吸盤を聖痕として持つ彼女の願いは、ティア・ハートに頼らない、祖霊使いへの覚醒であった。
 なぜここまでティア・ハートを嫌いになったのかはわからない。が、大嫌いな祖父からの誕生日のプレゼントが、このティア・ハートだったことが要因の一つであることに間違いは無かった。
 ならば捨ててしまえばいいのであるが、やはり大嫌いな祖父からの誕生日プレゼントであるからこそ、捨てることはできなかった。
 愛の対義語は憎悪ではない。無関心である。他人に興味を持たない少女の、それは精一杯の感情であった。
「む!?」
 歩き始めた廊下の向こうから、小さな生き物(?)が歩いてくる。いや、それは人に創られたものらしい。背中にアンテナをつけ、何者かに操られているような魔導機械・・・。
 この時、少女は気づかなかった。ジェンダの言った言葉が、決して間違ってはいなかったことを・・・。
『でもこれは覚えておきなさい。ティア・ハートを持つものは魅かれあう。貴女が次に会う人物が、ティア・ハーツかもしれないわよ?』

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