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ネコミミ冒険活劇びーわな!
〜Excite NaTS-Extra〜
『連なる、断章』

 少女の目の前にいるのは、黒いヴェールを被った人物だ。黒い調度に覆われた部屋の中。傍らに少年と蛇族のビーワナを控えさせ、静かに腰を下ろしている。
「シーラ様。そちらは?」
 沈黙に耐えかねた少女……イルシャナが口を開き、場の空気が僅かにきしみを上げた。
「リヴェーダです。貴女も、ご存じでしょう?」
 問われ、イルシャナは静かに頷く。
 リヴェーダと呼ばれた蛇は宮廷付きの占い師だ。基本的に迷信を信じない国王からは期待されていないため、貴族相手に細々と占いをしている老爺のはずだが……。
「彼を、スクメギでの副官に付けます」
「……は!?」
 その声がイルシャナの今までの人生で一番情けない返事だったのは、間違いないだろう。
「イルシャナ、そんな声を出す人がありますか……」
 薄い紗の向こう、表情を見せぬシーラも呆れ声だ。
「で、ですが……」
 宮廷の役人でも、プリンセスガードや近衛の一人でもいい。よりによって、こんな陰気な老人を付けることはないではないか。
「リヴェーダは、実務にも魔術にも造詣の深い方です。殊にスクメギは、古代の遺跡に関する深い知識が必要となる場所。きっと貴女の力になってくれるはずです」
 彼を越える知識の持ち主は居ない。
 シーラは、暗にそう言っているのだ。気付かないイルシャナではない。気付かないわけではないが……。
 その時、軽くドアを叩く音がある。
「誰ですか? 姫様は面会中ですよ」
 ドアの向こうに叱責したのはシーラの隣に立つ少年だった。イクスという名の彼もハイニと同じ、フェ・インから引き抜かれた近衛兵の一人だ。もちろん、イルシャナとも顔見知りである。
「申し訳ありません。ランダール公のお嬢様のご紹介で、お客様が……」
 柔らかな叱責に姿を見せたのは、シーラ付きのメイドだった。アリスやトーカのメイドよりも、幾分大人しい格好をしている。
「……ハイニィが?」
 先程別れたばかりだというのに、何の用だろう。イルシャナが馬車でこちらに来てそう経っていないから、カフェで別れてすぐにこちらへ向かった計算になる。
 別段忘れ物をした覚えはないし、仮にあっても家に届けさせれば済むはずだ。
「いえ、リヴェーダ様にご用があるという方を連れていると……」
「吾輩に、ですかな?」
 ようやく放たれたリヴェーダの声に、メイドは思わず身を縮めた。イルシャナも身を僅かに強ばらせている。老爺の声が心に粘り着き、首筋にしゅるりと絡み付く、まさしく蛇そのものの声だったからだ。
「は……はい。壮年の、犬族の方です。お名前は『狂犬』と言えば通じると」
「おお、おお。承知致した。確かにその者は、吾輩の朋友に相違ない」
 顔合わせは済んだのだからもう用はない。シーラやイルシャナへの挨拶もそこそこに、リヴェーダは黒ずくめの部屋をいそいそと後にする。
 厚いドアが閉じた瞬間、その場にいた三人が、誰とも無くため息を吐いた。そんな様子は見せなかったが、シーラやイクスもそれなりにプレッシャーがあったらしい。
「シーラ様ぁ……。私、あの人と本当に行かなければならないんですか?」
「ええ。少ししたらあともう数名、手伝いを向かわせますから」
 表情の見えないシーラに、「これ以上蛇族は勘弁してください」とイルシャナは本気で頭を下げるのだった。

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