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ネコミミ冒険活劇びーわな!
〜Excite NaTS-Extra〜
『連なる、断章』

「ねえ、イルシャナ」
 王宮へ向かう馬車の中。アリスは、目の前に座るイルシャナに小さく問いかけた。
「彼女、ハイニと言ったかしら? 貴女はあの子に紹介状を書かなかったの?」
 素っ気ないが、どこか真剣味を帯びた問いだ。
「貴女か叔父様なら、チハヤヤよりも影響力が大きいでしょうに」
 イルシャナの母親とアリスの母親は姉妹だから、イルシャナとアリスは従姉の関係にある。そしてイルシャナの父親は王国の大臣だ。
 大臣やその娘の紹介状ともなれば、近衛への取り立ても容易だろう。少なくとも、一近衛騎士でしかないチハヤヤの推薦よりは、はるかに簡単なはずだ。
「姫様ぁ、ナコココで遊びながら他のコの話なんて、ひどいにゃあ!」
 その真剣さは、とても手の中でナコココを弄びながらの台詞とは思えなかった。
 早い話が、馬車の中でそういうことをしていたのである。
「あら、ナココは最初から別腹だから、私は全然問題ないけれど?」
 甘い声で鳴かせておいて、視線だけは冷厳に問う。
 貴女は紹介状を書いたのかと。
 あの娘は、貴女に紹介状を求めなかったのかと。
 だが、アリスのその問いにイルシャナは首を振った。
 横に。
「そんな事をしたら、私はハイニに許してもらえないでしょうね」
 その一言が、彼女の全てを物語っている。
「……なるほど」
 その答えを受け、アリスは満足げに微笑んだ。
 彼女の性格を十分に知っているイルシャナは、静かにアリスを見守っている。ナコココの痴態を気にする様子すらない。何しろ王城でアリスと親しくしていれば、嫌でも目に付く光景なのだ。幼い頃から遊び友達として育ったイルシャナからすれば、いつもの事、で済んでしまうのである。
「そうそう。今日はイルシャナは王宮に泊まるのよね?」
 問われ、イルシャナは首を縦に。
 来週の出発までに、諸々の手続きや挨拶を全て済ませなければならないのだ。今週の半分ほどは、王宮に泊まる事になるだろう。
「なら、私の部屋に泊まりなさいな」
「ええーっ!」
 非難の声を上げたのはイルシャナではなく、ナコココだった。
「姫様ひどいにゃー! 浮気者にゃー! ナコココ抱いてる時に……」
「いいじゃない。しばらく、イルシャナとは逢えないんだし」
 向かいの席に座る少女の頬にそっと手を伸ばし、優しく問う。
「ナココは良く知っているでしょう? 私は離ればなれになる子にあっさり手が振れるほど、ドライじゃないって」
「にゃあああああっ!」
「イルシャナはどう? 私とは、嫌かしら?」
 腕の中でくたりとくずおれた猫の娘を愛おしげに抱き寄せたまま、アリスはもう一度そう問いかけるのだった。

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