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ネコミミ冒険活劇びーわな!
〜Excite NaTS-Extra〜
『連なる、断章』

「姫様……」
 そう。
 姫様、である。
 ハイニはすっと立ち上がり、優雅に一礼。
「ハイニ・ランダールと申します。アリシア姫様には、ご機嫌麗しゅう」
 言葉は自然と流れ出た。慌てていても、生来の優雅さが十分にフォローしてくれる。略式の挨拶だが、公式の場ではないのだから粗相にはならないはずだ。
「そんなに緊張しなくてもいいわよ。公式の場ではないのだから」
 だが、まっすぐ空に伸びた両耳に、アリスは苦笑を浮かべるのみ。
「は、はぁ……」
 見れば、隣のイルシャナはテラスの席から立ち上がる様子もない。相当に気安い存在なのか、軽く会釈し、傍らのメイドに小さく指示を与えただけだ。
「イル。今日は姉様に呼ばれていたのではなくて?」
 空いた椅子にすいと腰掛け、メイドからカップを受け取る。後に控えていた魔術師らしいビーワナの娘も同様に受け取ろうとして……何事かメイドに指示して引き取らせた。
「ハイニィがフェ・インの試験で近衛に入ると言うから、剣の相手をしておりましたの」
 実力主義のフェインリールは王立学園ということもあり、実際に王城に入っての研修や実習を受けることも多い。成績の最上位者ともなれば、王やアリス達の側近や近衛として取り立てられる事すらあった。
 アリスの姉姫であるシーラのプリンセスガードの大半はフェ・インの生徒が務めているから、ハイニが近衛に入るというのもおかしな話ではない。
「……父様の近衛に?」
 だが、イルシャナの言葉にアリスは柳眉をひそめる。
 国王直属の近衛は少数精鋭を標榜し、事実大国の王の護衛と思えないほどに少なかった。別に採用率が低いわけでも、希望者がいないわけでもない。毎年多くの冒険者や傭兵が試験を受けに来るし、王家側もそれなりの数を合格させる。
 問題は、王が強すぎる所にあった。
 守るべき護衛が逆に主に守られてしまい、プライドをズタズタにされるなどいつものこと。新人が近衛を辞める理由の九割九分がこれだし、合格者が一人も残らない年も珍しくない。
 要するに……初めから少数精鋭を目指したわけではなく、諸事情で『結果的に』少数精鋭になってしまっただけ、なのである。
 父様に護衛なんかいらないだろうと常々思っているアリスからすれば、フェ・インの生徒程度が近衛の任務をこなせるとは思えなかった。
「はい。チハヤヤ先生に相談したら、陛下の近衛がいいでしょうと」
 最初は広く門戸の開かれたアリスのプリンセスガードを希望したのだが、自分が何とかするからと、真剣に説得されたのだという。
「……へぇ」
 チハヤヤがねぇ、と呟き、アリス。
「まあ、いいわ。イルシャナ、王宮に行くなら、私の馬車に同席を許すけれど」
「ええ。喜んで」
 ようやくアイスティーを受け取った猫の魔術師の首を掴み、席を立つ。去る三人の背中に、ハイニは珍しく手など振ってみせる。
 その背中に声が掛けられたのも、また必然だったのだろうか。

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