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獣甲ビーファイター
エピローグプロローグ1
“『赤』の後継者”

 膨大な魔力によって生み出された苛烈な波濤が、最後の魔物の群れを一気に押し流した。
「手応えがないの……これで仕舞いか」
 燃え上がる杖を元の宝珠に戻し、ローブを被ったままの蛇は静かに呟く。
「そうねぇ。もうちょっと多くても、よかったかな?」
 傍らにひらりと舞い降りたのは、薄桃の短衣に小振りなロッドを持った可愛らしい娘だった。こちらも装飾の多いロッドを元のティア・ハーツに戻し、ほぅと一息。
「アンタらがデタラメ過ぎんだよ……」
 そんな二人を見てため息をつくのは、身長ほどもある柱時計を傍に置いたままのキッドだった。薄く紫電の走る柱時計は重さがほとんどないらしく、キッドの腕の動きに沿ってゆらゆらとその位置を変えている。
「そっかなぁ。でも、これもキッドくんのおかげだよねー?」
 娘はそう言うと、一人だけ不機嫌な少年に屈託のない笑みを見せ、後からひょいと抱きついた。
「ってこら、やめろよっ! アクアっ!」
「ふふん。今日はどこからどーみてもあたしがおねーさんだもんねぇ」
 そう。アクア、である。
 キッドのかつての力は『対象を幼児化する』だけの魔法だった。だが、新たなイメージを手にした彼は、戻すだけだった刻を自在に操る力を手に入れた。
 今のアクアは彼女が最も強い力を操るであろう、未来の姿なのだ。
「だーっ! はーなーせーーー!」
「あはは。かわいー」
 少年の背に柔らかな胸を押し付けたまま、少女は少年の反応がおかしいのかけらけらと笑っている。
「とは言え、あまりにも手応えが無さ過ぎる」
 そんな呑気な光景を横目に、男は静かに呟いた。
「それはそうだろう。こっちは陽動だからな」
 まさか三人で片付けるとは思わなんだが。と、男の呟きにどこからともなく聞こえた声が続ける。
「……成程な」
 蛇の術士に驚いた様子はない。
 静かな言葉と共に再び燃え上がる三蛇の杖。アクアに遊ばれてこそいたが、キッドの力はまだ解けていない。アクアも既にキッドを解放し、装飾過剰なロッドを再展開。無論、まだ最盛期の力と姿を保ったままだ。
「アクア、スクメギまで跳べるかの?」
「う……ンッ!?」
 だが、その答えはくぐもった悲鳴によって遮られた。
「アクアっ! がぁっ!」
 連なるのは、キッドの鈍い叫び声。雷光が爆ぜる音が、少年のオーバーイメージが途切れた事をリヴェーダに伝える。
「ちぃっ」
 気付いた時には既に眼前。迫る影の一撃を『三聖頌』で受け止めて、魔術師は本能だけで詠唱していた魔法を鋭く叩き付けた。
「フレアっ!」

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