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獣甲ビーファイター
エピローグプロローグ1
“『赤』の後継者”

「こんなものか……」
 辺りに流れた冷たい声に、キッドは思わず両手で耳を覆い隠していた。
「爺……さん。あんま、喋らないでくれよ」
「修行が足りぬの、キッド」
 フードで視線を隠したまま、蛇族の老爺は静かに嗤う。
 いや、そこに立つのは老爺ではなかった。
 幽鬼の如くすいと立つ、若き魔術師の姿がそこにある。キッドの新たな力によって刻を巻き戻された、老爺だった男の姿だ。
「あ……ああ……悪い」
 視線を合わせぬままで答えるキッドにいつもの威勢の良さはない。まさに蛇に睨まれた蛙の如く、リヴェーダの存在に完全に圧されている。
「さて。残り半分ほどか」
 そう呟く遙か向こうには、氷の墓標が並んでいた。
「バースト」
 アクアの力で凍り付いたそれを僅か一言で端から打ち砕き、さらに杖をかざす。燃え上がる三匹の蛇から成る異形の杖は、ティア・ハーツを埋め込んだ杖ではない。それ自身がティア・ハーツから生み出されたオーバーイメージ『三聖頌』の姿。
「……無茶苦茶だな、あんたら」
「祖霊使いの力にティア・ハーツの力が加われば、こうなる!」
 氷片と化した同胞を踏み越え、魔物の群れは迫り来る。その中央に今度は灼熱の太陽が生まれ出た。一瞬後にはには天地を繋ぐ大竜巻が現れて、灼き尽くされた魔物の群れを塵へと返していく。
 老いて熟成された業に壮年の力が加わった今、老爺の攻めに容赦はない。
「危ねえっ!」
 その蛇が次の構えを見せた瞬間、正面に跳躍した魔物が姿を現す。
 杖をかざしたままで無防備なリヴェーダに、右の大バサミをかざし……。
 そのまま、動きを止める。
「儂の前に立つとは、何と愚かな……」
 クエイク。
 蛇の視線に睨まれたまま、愚かな魔物は大地の顎に粉々に打ち砕かれた。


「美味しそうな子がいるのね」
 それは、年端もいかない幼い娘。
 白と黒、左右で色の違う腕を十字に組み合わせ、女の不可解な攻撃を正面から受け止めたのだ。
「ウシャス……」
 背にした男を護る為に。
「お前、何で」
 男は知っていた。銀糸に絡め取られた少女がもう戦えない体だということを。先の戦いで受けた深い傷が、彼女から無敵の力を奪い去ったのだ。
「マスターと共に戦うのが……私の、役目ですから」
 白い粘りに動きを縛されたまま、少女は背中の主へ静かに答える。
「あなたは、誰?」
 そして、正面の敵へ凛とした問い掛けを放つ。
「あら。貴女は分かっているでしょうに」
 女はくすくすと笑い、白糸に縛られた少女のおとがいを軽く持ち上げた。
「貴女たち紛い物の、オリジナルよ」
 そのまま引き寄せ、娘の薄い唇を長い舌で舐め上げる。動けず、避けられず、嫌悪に震えるだけの唇をゆっくりと舐めねぶり、蹂躙していく。
 どす。
 その女の体が鈍い衝撃で揺れ、傾いで……。
 どさりと、大理石の床に崩れ落ちた。

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