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読者参加型プライベート・リアクション
ユノス=クラウディア
第5話 そして……(その12)



「フッ……。そんなものでこの私を捉えられるものか!」
 天を貫く無数の光条からことごとくその身を翻し、真紅の堕天使は叫んだ。
「無駄だと言ったろう!」
 そのまま構えていた槍を大きく振りかぶり……
「ジェノサイドストームッ!」
 空を斬った槍から生まれた漆黒の衝撃波を三眼の魔人に向けて叩き付ける。が、融
魔の方もそれに驚く気配はない。額に浮かぶ第三の眼……いや、瞳のごとく描かれた
奇怪な紋様に淡い光を灯らせたかと思うと、
 轟ッ!
 額から放たれた爆光を衝撃波にぶつけ、そのまま相殺する。相殺された互いの攻撃
はあたりの建物やディルハムに降り注ぎ、触れた物全てを巻き上がる粉塵へと瞬時に
変えるが……戦っている双方ともそれを気にする様子はない。
 だが。
 その舞い上がる粉塵が互いの放つ気によって一瞬で吹き払われた時。
 巨大な紫電の太刀を構えた三眼の魔人は、その全方位を無数のジェノサリアによっ
て取り囲まれていた。
 ジェノサリアが最大奥義・ジェノサイドイリュージョンの中心に捉えられたユウマ
に、避ける場所など無し!
「いくら力があるとて所詮はまだまだ子供よ! とどめだっ! ジェノサイド・イリ
ュー……」
「魔の力に囚われおって…………」
 すぱぁぁぁぁぁん
 発動、キャンセル。
 一瞬にして無数のジェノサリア(あとユウマ)にスリッパの一撃で激しいツッコミ
を叩き込んだカイラは、いつもの異様に自信たっぷりの声で叫んだ。
「この、大馬鹿者どもがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
 容赦のないスリッパのツッコミを食らい、そのまま地面に崩れ落ちる無数のジェノ
サリア(あとユウマも)は、思った。
『常識の通用しないヤツって恐い』
 ……と。


「あーあ。何があったんだ? こいつは……」
 何だか神殿に突入する前とは全然別モノと化した神殿周辺の景色をぐるりと見渡し、
シュナイトは呆然と呟いた。
「我々の兵器にはこれ程のものはないぞ……。バベジめ、何かやっていたのか……?」
 シュナイトに肩を貸して貰いつつ、ボロボロのマナトも呟く。雷の檻に囚われてい
た時は雷にヴァートを乱されて外の状況が分からなかったから、まさかこの瓦礫の山
と化した全ての光景をたった二人の人間が行ったものとは二人とも露ほどにも思わな
い。
「何かヴァートの流れがメチャクチャだな……。これじゃ、どこに誰がいるやら分か
んねえぜ」
 遙か向こうの方には桁外れなヴァートを持った存在がいる気配もするし、ほんの少
し前まではこの辺りにも何か凄まじいものがいた気がする。ただ、それの残したヴァ
ートのおかげで普通の人間程度の大きさのヴァートは霞んでしまって、レリエルにも
よく分からない。
―だからお前達はまだまだ青いというのだ。私のように常に心の平静を保ち、努力を
惜しまず、コツコツと地道に修行を重ねていけば、お前達に負けはしない力とて得る
ことは出来る。それをお前達は……―
「……まあ、あの声を聞けば場所なんて分かるけどな」
 瓦礫の山の向こうからかすかに聞こえてくる説教の声を頼りにボチボチ進んでいく
と、案の定というか何というか、ナイラはいた。赤い翼を持った女性と知らない青年
が説教されているが、ジェノサリアの方はともかく青年の方が封じられた力を解き放
ったユウマだとは思いもしない。
「おう、シュナイト・ソードブレーカーか。お前達の首尾はどうだ?」
「さっぱりダメだ。ユノスちゃんとルゥちゃんの二人は神殿の奥に行けたみたいだが
な。今は変な雷の結界みたいなのが張られてて、入れそうにない」
 たった一枚の結界を破るだけで、マナトは既に戦闘不能に近い状態なのだ。後どれ
だけ結界があるのかは分からないが、玉座までの距離と一枚目と二枚目の結界の距離
を概算すると、あと最低でも四〜五十枚はある計算になる。
「ふむ……。別の侵入ルートはないのか?」
「ない。霧の大地の要である神殿には古代の防護術がかかっているから、我々の攻撃
で破壊する事は不可能だ」
 だからユウマとジェノサリアの戦いの余波を受けても傷一つ付かなかったのだろう。
偉大なり古代の英知、である。
 今回は偉大な英知も邪魔なだけでしかなかったが。
「さて、どうするか……」
「ならば、正面からの強行突破しかないだろう。美しくはない……がな」
 ここに至って、ようやく青年が口を開いた。その言動は、姿こそ違えシュナイトも
良く知る男の子そのままのもの。
「やれるのか? ……ユウマ」
 確信なく呟いたその名前に軽く頷くと、魔人の姿より元の青年の姿へと戻ったユウ
マはマントの中から巨大な大剣……眼魔を抜き放つ。
「やれるのか? 愚問だな……」
 不敵な笑みを浮かべ、青年へと姿を変えた男の子は言葉を紡いだ。
「やるしかない、だろう?」


「ここから真っ直ぐ進めば、玉座の間まで一直線だ」
 神殿の入り口に立ち、少し向こうで眼魔を構えたユウマに指示を送るのはマナト。
雷のカーテンを突破した時に受けた傷を癒やす術もないまま、シュナイトに肩を貸さ
れてようやく立っている。
「ならば、ここから真っ直ぐに攻撃すればいいわけか……」
 対するユウマも似たようなものだ。もともとユウマの今の状態は彼の体に絶大な負
担を強いるもの。さらに、今日はその上の形態にまで変わっている。
 不本意ながらも、ではあったが。
 ふらつく体を信念と美学で支えてはいるものの、残された力は、少ない。
「マナト、退け。方向さえ分かればお前の役目は済んでいる」
「ああ。私もまだ死ぬわけにはいかんからな」
 入り口から離れ、OKの合図を送るマナト。応急に巻かれた包帯が痛々しいが、そ
れは他の誰にも言えたこと。誰もが何かしらの怪我を負っているのだ。
「眼魔。今日最後の一撃、力を貸してくれよ!」
「ぷぎぃっ」
 一瞬だけユウマの方に柄の瞳を動かした眼魔が、再び異様な変形を始めた。3mに
達しようかという長大な刃の部分が中央より縦に割け、二つの刃が水平に並んだ鋏状
の形態を造り上げる。
「行くぞ……眼魔ァっ!」
 咆哮!
 水平に構えられた眼魔の刃から莫大なエネルギーが放たれ、ぽっかりと口を開けた
神殿の入り口へと吸い込まれていく。
 しかし、青年の体がエネルギー波の反動か僅かに揺れ…
「……! マナト!」
 揺れたエネルギー波の先にいたのは……
「構うな! 汝の責を果たせ!」
 マナトと、シュナイト。
「……おぉぉぉぉぉぉぉっ!」
 満身創痍のユウマのどこにこれ程の力が残されていたものか、強引にもとの座標に
戻されたエネルギーの奔流は雷の結界を容赦なく貫き、結界の発生装置を貫く端から
打ち砕いていく。
 十枚……十五枚……二十枚……そして、あと、半分。
 だが。
「すまん……マナト……シュナイト……。限……か……」
 その声と共に眼魔から放たれていたエネルギーの奔流は急速に力を失い、結界に受
け止められてしまった。同時にユウマの体が流れる水を受けて崩れる砂山のようにゆ
っくりと崩壊を始め……
「チッ……。させるものかっ!」
 その様子を感じ取ったジェノサリアが一気に加速し、神殿の入り口へと一気に躍り
込んだ。
 床面すれすれを飛翔するジェノサリアは砕かれた雷の結界を次々と通り越し、ユウ
マのエネルギー波が真紅の翼と背中を灼く事も厭わず。
「いっけぇぇぇっ! ジェノサイド・イリュージョンっ!」
 再び真紅の翼を凶々しき竜の翼へと変え、雷の結界そのものに向けて必殺の奥義を
放つ!
 五枚……十枚……二十枚……二十五枚……あと、一枚!
 際限なく放たれる雷とユウマのエネルギー波に、自らの防御結界や翼の護りも長く
は持たない。万全の状態ならば他愛もない相手であったが……今の彼女はいかんせん
融魔と長く戦い過ぎていた。
「くそっ……」
 失速し、大理石の床へとたたきつけられるジェノサリア。既に翼ももとの翼に戻っ
てはいたが……流れ出る鮮血に染まり、既にもとの色は何色か分からない。
 あと、一枚。
 崩壊の果て。闇の最後に残された小さなユウマと傍らの小さな魔獣は、そのままそ
の場にどさりと倒れ込んだ。
 あと、一枚。
 ほんの、一枚。
「一枚……」
 その、一枚が。
「やら……せるかぁぁぁっ!」
 一瞬のうちに、この世界から姿を消していた。
 ジェノサリアの放った、最後の衝撃波によって。
続劇
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