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読者参加型プライベート・リアクション
ユノス=クラウディア
第5話 そして……(その13)



「大将!」
 ユウマの放ったエネルギー波が収まり、ようやくシュナイトの元に駆けつけたレリ
エルは、マナトを抱き起こしている眼帯……いや、眼帯無き青年に呆然と声を掛けた。
「……大将?」
「そっか……。そうなんだな……レリエル……。アーサー叔父上は……」
 呆然と青年を見つめる黒の天使を両の目……瑠璃色の左目と、獣の如き異様な瞳孔
に異様な紋章の絡み付いた真紅の右目……で見遣り。
「大将……」
「全部、視えたよ。この『邪眼』を使った時にな……」
 青年は、足下に落ちていた自らの眼帯をそっと拾い上げた。
 「全く、面倒事は全て私なのだな。帰ってきたら連中には説教してやらねば」
 気を失っているジェノサリアに包帯を巻いてやりながら、カイラはそんな事を呟い
ていた。彼女の傍らには力を使い果たしたユウマとマナトも眠っている。
 ディルハム達が来る気配がないから良いものの、こんな所をディルハムに襲われて
はひとたまりもないだろう。
「カイラさん!」
 と、そんな事を考えていると、向こうの方から誰かが走ってきた。
「ティウィンとザキエルか。他の連中はどうした? 出来れば、フォリント辺りがい
ると有り難いのだが」
 ティウィンが来るという事は、ベースに向かった連中の作戦は成功したのだろう。
ナイラは分かっている事までいちいち聞くような性格ではなかったから、作戦の成否
に関しては口にしなかった。
「フォルさんはまだベースです。シークさんとナイラさんは、何か用事があるとかで
……。それよりも、ユウマ君達はどうしたんです?」
 何かあったのか、ティウィンの口調には元気がない。無論、ユウマ達の様子もその
元気の無さに関わっているのだろうが。
「何。ただの力の使い過ぎだ。手当も済んだし、そのうち起きるだろうから大したこ
とはない」
 ジェノサリアの傷を何とかしてもらおうと思って、ナイラは治癒術の使えそうなフ
ォルが来ることを期待したのだが……偉そうに眼鏡など掛けていても所詮はただの学
者バカなのだろう。後で説教だな、とナイラは心の中で決めた。
「そうですか……」
「出来れば、あの神殿の中に行ってやってくれるか? ユノスとルゥを追って、シュ
ナイトとレリエルが先程入ったのだが……」
 別に信用していないわけではないが、周りに転がっている怪我人の事を考えれば心
配ではある。うちの二人は自爆に近いとは言え、この怪我人達もかなりの手練れなの
だ。
「ええ。すぐに僕も。行こう、ザキエル」
「はい!」
 走り出したティウィンとザキエルに、カイラは一言声を掛ける。
「ティウィン。迷った時は、自分が何を成すべきか、何を成せるか。よく考えるのだ。
そうすれば、自ずと道が見えてこよう」
 ティウィンはしばらく立ち止まって考えていたが……やがてカイラの方に一礼し、
再び神殿に向けて走り出した。 


「バベジ様……」
 溶岩流の上に建てられた巨大な鋼鉄の塔。少女は塔につながる橋の中央に立ち、そ
の名を小さく呟く。溶岩流の暑さには慣れているから、特に汗もかかなかった。
「姫……。何度来ても同じですぞ。我こそがバベジ。この全ての世界を収めんとする、
この世界の神!」
 巨大な塔の張り出しに立つのは、一体のディルハムの姿。やけに細身の姿を取った
このディルハムは、世の全てを統べんと両の腕を一杯に広げ、この火口の果てにある
であろう遙かな天空を仰ぐ。
「違うよ。バベジ様は、そんな事望んでなかった」
「姫。この私の何が分かります? この、神である私の…」
 叫ぶでもなく、怒るでもなく。ユノスは、静かに……淡々と、仮初めの実体を得た
皇帝に向かって言葉を掛ける。 
「分かるよ。だって私、バベジ様と色んな事をお話ししたもの。みんなが炎の巫女と
してしか……神の一部としてしか私を見てくれない中で、バベジ様達だけは私を友達
として扱ってくれた……」
 炎の巫女……この霧の大地の力の源である『大地の奥の力』を操る事の出来る、選
ばれた存在。彼女無くして霧の大地はその偉大な力を発揮できないし、逆を言えば彼
女の望み一つで霧の大地は一瞬にして滅んでしまう。それ故、炎の巫女は生まれた時
から特殊な教育を受け、外界との接触をほとんど断たれて育てられるのだ。
 外界の悪い影響を受けないように。そして、人間らしい不要な望みを持たないよう
に。
「話をすれば分かる……か。毒されましたかな? 地上の人間どもに」
 世界の管理者であるバベジと並ぶ、霧の大地を構成する最も重要な『パーツ』。
 それが、炎の巫女の本質。
「炎の巫女システムは解明してあります。我の負担を抑えるために貴女を手に入れよ
うとも思いましたが……。不要ですよ、今の貴女は」
 皇帝から放たれた雷を結界で弾き、ユノスは言葉を続ける。
「バベジ様はね、この霧の大地が大好きだった。私や、兄様や、ナイラさんや、長老
様や、ディルハムのみんなや、この街がね……」
 続く無数の雷もユノスには一撃たりとも当たりはしない。全ては結界に遮られ、果
てしない天空へとはじき飛ばされる。
「だから、この街をずっと見守っていたいって。使命でもなく、プログラムでもなく、
心から、そう思うって」
「我らはただのプログラムですよ。蒸気が充満する動と欠乏した静。この二つの結果
が冷徹に支配する……ね。それがココロなどと……。それに、彼の存在は既にこの街
の全メモリーから消し去られていますよ」
 嘲笑する皇帝を既に見ることもなく、ユノスは懐から小さな鍵を取り出した。
「バベジ様……私、あなたとの約束、守ります……」
――もし自分が暴走して、この街に迷惑を掛けるようなことがあれば……いつでも私
を止めて下さい。皆さんの悲しむ顔が、私の一番悲しい事ですから――
 初めて聞いたときは、そんな事は起きないと思った。だが、今思えば……彼はあの
時からこんな自体を予想していたのだろう。
「まさか……貴様……」
 バベジの塔まで辿り着いたユノスは塔の最下層にある小さな鍵穴へとその鍵を填め
る。
「! やめろ! 今私を停止させたら……ほの……」
 そのユノスの様子を見るなり、途端に態度を豹変させる皇帝。今までの尊大な態度
はどこへやら、慌ててユノスを止めようと叫ぶ。
 しかし。
 ――かちり――
「ムの……制……ぎ…ょ…が……」
 あまりに軽い音を立て、鍵は回った。


「……あら?」
 目の前に突きつけられ……そのまま動かなくなってしまった槍に、クリオネは珍し
い声を上げた。
「止まってる……の?」
 ゆっくりと体をずらしてみるが、ディルハムの槍の穂先がその動きに追随する様子
は見られない。本当に、止まっているのだ。
「クリオネ! 何か、他の奴らも全部止まってるぜ!」
 上空から周囲を見回したディルドから、そんな返事が返ってくる。
「どちらにせよ、命拾いした事だけは確かみたいだな……」
「あら? そうかしら?」
 そういいながら降りてきた精霊の青年に、静かに答えるエレンティアの少女。
「風も大地も震えている。これから…一体何が起こるのかしらね?」
 その瞳は、これから起こる事態の全てを見通しているかのように見えた。


「シュケ……ル?」
 動きを止めた巨大な甲冑に、アズマはふと、声を掛けた。
 振り下ろされた剣はアズマを構えたブーメランごと吹き飛ばし、気力を使い果たし
て動く力すら失ったアズマの目の前でぴたりと止まっている。
 シュケルにとっては先日の決着がつけたいだけであり、アズマの命を取る気など初
めから無かったのだ。本気で戦えて楽しかったぞ、と言って楽しげに笑ったシュケル
は、ゆっくりと剣を退こうとし……
「まだ……決着ついてねえだろ……シュケル……。リターンマッチと……いこうぜ…
…」
 もう、二度と動くことはない鋼鉄の巨鎧に、少年は崩れ落ちつつも呆然と声を掛け
る。
「そんなの……そんなのって……ねえだろ!」
 青い空にアズマの絶叫が響き渡り。
 その絶叫に答えるかのように、霧の大地を取り囲んでいた無数の山が……その頂よ
り、一斉に炎を放った。
続劇
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