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読者参加型プライベート・リアクション
ユノス=クラウディア
第5話 そして……(その11)



Act:5 神世の時代の終焉

――闇と死の使いたるものを――
(彼には何か、辛い決断をさせてしまったようですね……)
 神殿へと走っていくティウィンとザキエルをベースの屋根の上から見送り、シーク
はそんな感慨を抱いていた。
 シークも新たな力を手に入れたからとは言え、万能というわけではない。今のバベ
ジの状態を知っているわけもなかったし、ティウィンがバベジにどう関わったかに至
っては彼の常識の範疇を越えている。
(そして、今度は彼女にも……)
 シークの呪文詠唱を静かに聞いているナイラをちらりと一瞥し、シークは再びそう
想った。
――我 ここに召喚せり――
 正直なところ、彼としてはマナトやバベジ、果ては霧の大地がどうなろうと知った
事ではないのだ。ベースの中にいるはずのフォルの事に至っては、少々の事では死に
はしないだろう、としか考えていない。
 たった一つ気にかかるのは、傍らの黒髪の女性の事だけ。
 だから、今この召喚を行う前に彼女へと問いかけたのだ。
『この……貴女の故郷を、本当に破壊しても良いですか?』
 と。
 イエス。そしてノー。どちらの答えであっても、彼は彼女を責めるつもりはない。
ただ、どちらの結果であっても……彼女が悲しむ顔が、見たくなかっただけ。
(この歴史に幕を引く罪は、この私が引き受けましょう…)
 風が吹き、大地が叫ぶ。
――いでよ 漆黒のルーザンベルク――
 彼の足下に生み出された魔法陣より放たれた一条の光が天と地を繋ぎ……
 ぉぉぉぉぉぉぉぉん!!!
 天空より現れた闇色の竜が、大地を震わせる咆哮を返した。


 ぉぉぉぉぉぉぉぉん……
 敷き詰められた石畳に、咆哮が木霊する。
「アズマよ! 感謝するぞ!」
 絡み付くように放たれたアズマの関節技を金属鎧の強度に物を言わせて強引に振り
払い、シュケルは叫ぶ。
 今まで彼は、常に何かのために戦ってきた。ある時は霧の王・バベジの為。またあ
る時はこの霧の大地の為。それが不満に思ったことは一度もない。それらの為に戦う
事は彼に任じられた役割だったし、何よりも彼はその事に誇りを持っていたからだ。
――我、闘う者也――
 だが、今だけは違う。
――我、毅き者也――
 誰のためでもない、自分のための戦い。
――我、人の力持て――
 霧の大地の力の守護者であるディルハムの力の全てを、その極めて個人的な理由の
ために全力で発揮する。
 自らのただ一人の主は、この世界の終わりに、それを許してくれたのだ。
――全てに勝利する者也!!!――
「おぉぉぉぉぉぉぉっ!」
 激突!
「負けぬ! 我が主のため……いや、私自身の為にも!」
 先程の数倍の威力とキレを得たアズマの一撃に左腕を打ち砕かれながらも、シュケ
ルは白銀のオーラを纏った少年に半壊した左腕を叩き込んでいた。


「それじゃ、ルゥちゃん。行って来るね」
 玉座の間の後ろに開いた空間の前で、ユノスはいつもの優しい笑みを浮かべた。
 彼女の目の前にあるのは、巨大な柱と、そこに空いた縦坑。玉座の間の地下深くに
あるバベジ本体へ通じる、たった一本の道だ。
「ご主人さまぁ……。ほんとに、ついて行っちゃダメ?」
「うん。これは、私が決着を着けないといけない事だから」
 あまりにあっさりとしたユノスの返事を、ルゥはぶんぶんと頭を振って拒む。
「やだ……。やだぁ……」
 彼女に去来するのは、『あの時』の光景。ユノスと出会った事で振り切れたと思っ
ていた、あの時の……。
「ルゥちゃん。いい? 良く聞いてね?」
 そのルゥの頭を優しく両手で触れ、ユノスは優しく諭す。
「ルゥちゃんは、他のみんな……兄様やシュナイトさんが来たら私がここに入ってい
ったって伝えて欲しいの。ルゥちゃんも来ちゃうと、後から来たみんなは私やルゥち
ゃんがどこに行っちゃったか分かんないでしょう?」
 こくりと頷く、ルゥ。
「それから、ルゥちゃんは私が帰ってくるのを待ってて欲しいの。帰るところがない
と、私はどこに帰っていいのか分からないもの」
 ユノスの顔は、いつもの穏やかで優しい笑顔だ。この霧の大地に来てから時折見せ
ていた、どこか悲しそうな、無理して作った笑顔ではない。
「うん……。ルゥ、待ってる。だから、絶対……絶対帰ってきてね!」
「約束する。だから、ルウちゃんも待っててね」
 軽くルゥの額に唇を寄せ、ユノスはそのまま縦坑に設えられた昇降機へと飛び乗っ
た。手慣れた動作で幾つかのスイッチを押し……
「ご主人さま、やっぱりルゥも行くっ!」
 と、ルゥは心の中に突如噴き上がった不安感に弾かれたように、縦坑へと走り出し
た!
 シュゥッ!
「ご主人さまぁぁっ!」
 軽い排気音を立てて閉じられた、縦坑への扉。
「にゃぁぁぁぁぁっ!」
 そのままの勢いを殺す気配すら見せず、ルゥは扉に握りしめた拳を叩き付ける。
 だが、ディルハムの装甲よりも堅いその扉は、彼女の放った必殺の衝撃波にすらき
しむ素振りも見せない。
 何度打ち込んでも、その結果は一緒。
「ご主人さまぁ…………」
 幾ら拳を打ち込んでもびくともしない鋼鉄の扉に縋り付き……ルゥは、声にもなら
ない泣き声を上げた。
続劇
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