薄紫の闇の中。
そいつが見たのは、何だったのか。
魔物と呼ぶに相応しき、巨人にはない巨大な翼か。
それとも分厚く頑丈な、魔物には纏えぬ巨人の鎧か。
「……また、見られたね」
鳳の翼を鋼に打ち替えたようなその翼を、ある者は魔物と呼び。
「……いいのよ。予定どおりだもの」
そいつの重装の戦装束を、またある者は巨人と呼ぶ。
「……いいのかな?」
少女達のはるか眼下にある、巨人とも魔物とも付かぬ何かは、逃げていく兵達など興味もないかのようにゆっくりと数歩を歩き……。
その場で、忽然と姿を消す。
「……いいのよ」
薄紫の夜空の上。闇の中に溶けるように消えたそれに、少女達は驚く事もない。
「なら、帰ろう」
「ええ。帰りましょ」
なぜならば。
薄紫の夜空の上。語り合っていた少女達もまた、夜の闇に混じり合うように消えてしまったのだから。

第4話 『調印式の悪夢』
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