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16.背信の刃

 ヴァルキュリアによって地上へと連れて来られた老人は、目の前の光景に小さく鼻を鳴らしてみせた。
「……面白い事を考えるものだ」
 鹵獲された神獣の末路に対して、思う所は特にない。戦場とはそういうものだし、老人自身も戦場の中で、人に言えないような事も数多くしてきた覚えがあるからだ。
 そんな事から比べれば、ククロの実験など非難すべき事ですらない。
「それより良いのか? 儂をこのような所に連れ出して」
「半蔵さんの代理なら、今のあなたは捕虜ではなくて、使者でしょう?」
 プレセアの言葉も多分に屁理屈を含んだものだったが、ムツキとしても困る事は何もない。むしろ二人の悪巧みに、快いものすら感じるほどだ。
「それより、こないだの話の続きを聞きたいんだ。スミルナのアーク……空気を浄化している仕掛けから、八達嶺の浄化装置は作られたんだよね?」
「それがどうかしたのか?」
 それは先日の尋問の時にも、北八楼を見に行った時にも話した事だ。技術的な細かい事や理論に関しては老爺には分からないし、和平が成った後に八達嶺の書庫で好きに調べてくれとしか言いようがなかったが……。
「そっか……やっぱり」
「何が分かりましたの?」
 一人で納得している様子のククロに、プレセアも首を傾げるだけだ。
「このメガリ・エクリシアでも使われてる空気の浄化装置も、スミルナのアークから作られた技術なんだ。神揚の浄化装置と同じようにね」
 それはキングアーツの軍人ならば誰でも知っている事だ。
 アークから見つかった技術を元にキングアーツは滅びの原野の薄紫の空気を浄化し、新たな領土を少しずつだが広げてきた。
 そもそもそのための橋頭堡を築く事が、このメガリ・エクリシア最大の目的なのだから。
「でも、キングアーツの浄化装置と神揚のそれでは、全く別物ですわよ?」
「そこが面白い所なんだよ。それって、大後退の前にあった文明が、キングアーツと神揚に分かれたって証拠だろ?」
 かつて世界が未曾有の大災害……大後退によって、滅びの原野に覆われる前。世界には、今とは比べものにならないほどに高度な文明があったという。
 それをククロは、ずっとキングアーツの技術のはるか先にあるものなのだと信じていた。
 けれどそれは、違っていたのだ。
「キングアーツと神揚を足して初めて、本当の古代の技術を理解出来るって事なんだよ。すごいすごい!」
「……すごいのか?」
「儂もよく分からんが、儂のこの腕と、貴様のその鉄の腕の元は同じと言うことか?」
 ヴァルキュリアの様子に首を振るムツキだが、発案者のククロはマントで隠されたムツキの左腕を握りしめ、楽しそうに笑っている。
「そうだよ! 古代の技術がどんなだったかは分かんないけど、キングアーツの機械技術と神揚の神術や生物を操る技術。たぶん、一つだった技術の一部分だけが主流になって、他がなくなっちゃったんだと思うんだ!」
 弓を引く事に特化させたジュリアの機体が、腕を肥大化させたように。
 運搬能力に特化させたプレセアの機体が、人の姿を捨てたように。
 古代の技術から、機械の技だけを特化させたのがキングアーツで、神術と生命の技を極めたのが神揚なのだろう。
「だから俺達はアークを参考にして機械式の浄化装置を思いついたし、神揚の人は神術式の浄化装置を考えたんだ……」
 だとすれば、二つの技術の源には交わる点があるはずだ。
 それを見つけ、そこをステップとして踏み出せば……キングアーツでも、神揚でもない、もっと古代の偉大な技に近付いた『何か』に辿り着けるかもしれないのだ。
「あ、アーレス! アーレスも聞いてよ! 大発見だよ!」
「何だ?」
「あのさ…………」
 余程嬉しいのだろう。ククロは興奮気味にムツキ達に語った事をひと息に話し終える。
「…………どう思う?」
「そうだな……」
 そんな大発見の感想を求められたアーレスが、ククロに向けて差し出したのは……。
「とりあえず、手を挙げてもらおうか」
 腰から引き抜いた、鋼の刃。
「……ヴァルちゃん」
 そして、傍らにいたヴァルも……。
「……すまんな」
 その動きに呼応して、腰の刃をプレセアへと突き付けているのであった。

続劇

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