10.それでも明日はやってくる アレクの仕事もひと息付いて、数を減じた執務室。 残っているのは、執務室の本来の住人……環とヴァルキュリアの、二人だけ。 「なあ、環」 「何だ?」 環は自分の席で、自身の仕事をこなしながら。 ヴァルキュリアはその傍らに立ち、警護としての役割を全うしながら。 「またお前は、壊れるのか?」 顔を合わせる事も、視線を絡ませる事もなく、言葉だけを交しあう。 「……どうだろうな。正直、自分で自分の壊れっぷりにだいぶ引いてる」 アーデルベルト達から彼等の見て来た世界の話を聞いて、さしもの環も口数を減らしていた。 「アレクが死んだからって、万里やソフィアまで殺すとか、いくらなんでもありえねえだろ……。っつーか、何で俺が両方トドメ刺してんだよ。そりゃ疑われるわ」 それだけアレクが大事だったのだろう。それは何となく理解出来るが、せいぜい総攻撃の指示を下す程度で、まさか二人の姫君まで手に掛けたとは思っていなかったのだ。 その話を聞けば、アーデルベルト達が環の動きを警戒する理由は十分に納得できた。 「もう一つ、聞いていいか?」 ヴァルキュリアの言葉に、環は言葉を返さない。 沈黙を承諾と取って、ヴァルキュリアはもう一つの問いを口にする。 「お前はアーレスのする事を見ているだけでいいと言った。あの津波の事件で……アレクが死んだらどうするつもりだった?」 再び来るのは沈黙だろうか。 そう思うヴァルキュリアだったが、それほど待つ事もなく、環はぽそりと口を開いた。 「あいつがその程度で死ぬタマかよ。神揚の連中に花を持たせたのは、何か考えがあるんだろ」 |