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2.レヴィー伯爵領の邂逅

「……帰ってない?」
 ロゥの質問に、レヴィー家の執事は困ったように答えた。
「はい。イーファお嬢様は、まだお戻りになっておりませんが……」
 レヴィー伯爵城館、玄関前だ。イーファが戻っているかと思いレヴィーの家を訪ねれば、この対応である。
「俺より先にアークウィパスを出たんだぞ、アイツは」
 アークウィパスの敗北から既に五日が過ぎていた。足の遅いハイリガードでさえ、アークウィパスからレヴィーまで三日と掛かっていない。機動力の高いドゥルシラなら、二日あれば余裕でレヴィーに着いているはずだ。
「居留守、ってワケはないよなぁ」
 ぽつりと呟いた言葉に、執事も苦笑する。
「ロゥ様の事はお嬢様より聞いております。それに、ハイリガード様の主殿と解っていて居留守を使う理由はありませんよ」
 レヴィー家と面識のないロゥだけが来たなら、怪しまれる事もあるだろう。だが、ハイリガードはしばらくレヴィーの世話になっていた事がある。もちろん、執事の彼とは顔見知りだ。
 その彼女の紹介なら、怪しむ理由はない。
「それよりもロゥ様。ここは一時、お引き取り願えませんか? レヴィー・カウントがお嬢様の消息を知ったら……。城下に宿は用意させますので」
「……ああ、そうだな。悪かった」
 執事の言う事ももっともである。ロゥ自身、そこまで心配する身内がいなかったため、考えが至らなかったのだ。
「では、案内を呼びますゆえ、少しお待ちを」
 そう言った執事の傍らに、二つの影が姿を見せた。
「その役、私が引き受けましょうか?」
 柔らかく陽光を弾く金髪に、ロゥとハイリガードは思わず息を飲んだ。
「……お前!」


 金髪の娘は、薄目の紅茶を優雅に口に運んだ。
「今は、アイディと名乗っているわ」
 当時は金の髪を長く伸ばしていたが、何があったのか、今は短く切り揃えている。偽名を名乗っている事と関係があるのだろう。
「そうか……。ラーゼニアで死んだと思ってたが……無事だったんだな。ムディア」
 ロゥが彼女と最後に会ったのは、軍部派と議会派の最終決戦の時。フェーラジンカの放った『葬角』に巻き込まれたらしく、そのまま行方を絶っていたのだ。
「ええ。システィーナに助けられてね」
 アイディの傍らにいるのは、ネコ族の少女。冒険者然とした彼女は、アイディの同僚なのだという。
「で、これからお前達はどうするんだ?」
 注がれた紅茶を半分ほど空け、ロゥは少女達に問うた。
「私は一度ココに戻るわ。メルディアはコルベットに残っているし、仲間にはシスティーナがつなぎを付けてくれるというから」
 こちらもショートケーキを口に運びつつ答える。
「王都の現状は、ロゥの話でだいたい解ったしね」
 状況は混み入っているのに、手持ちの情報は余りにも少ない。一度ココに戻り、そちらでも情報を集める必要があった。
 相当な強行軍になるだろうが、いつものことだ。諦めるしかない。
「ロゥは?」
「イーファが心配だしな。俺ももう一度アークウィパスに……」
 そう言いかけて、隣で何か言いたそうにしている少女に気が付いた。
「……行く前に、ちょっと人捜しだな」
「人捜し?」
「ああ。グルヴェアの処刑場に現れた、黒い獣機使いに用がある」
 だろう? と問えば、ハイリガードはフォークを口にしたまま遠慮がちに頷いてみせた。
「うん……。あの人達、カースロット姉様の事を知ってるみたいだった……」
 彼らは、カースロットの事を『鬼天』と呼んだ。その名の由来をハイリガードは知らないが、あの黒い獣機使いが彼女の知らない何かを知っている事は明らかだった。
「黒い獣機使いって……クロウザの事?」
 アイディの口からあっさりと出て来た謎の人物の名前に、少年と少女は思わず席を立ち上がる。
「知ってるのか!?」
「ええ。彼は、確かいま……」



続劇
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