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ネコミミ冒険活劇びーわな!
ティア・ハーツ
第4.5話「続きの番外」(後編)

 同じ頃、体育館内。
「うんうん、ピュウイくんは何着ても似合うねぇ・・・。」
「そうですか・・・?いくら以前女性化して、女性の服を着ていたからといって、女装に慣れたくはないのですが・・・。」
 困惑するピュウイとは対照的に、ラレスは上機嫌だ。
 ピュウイは今、黒を基調としたフリルだらけのドレスを着ていた。いわゆる、「ゴスロリ」ファッションである。長いウェーブのかかった髪のかつらをかぶり、化粧も施したその姿は、最早女の子以外のなにものでもない。
 そして同じく、ピュウイの隣でゴスロリな服を着ている男が一人・・・。無表情なので感情の変化は読み取れないが、どう見ても喜んでいるようには見えない。それは周りの誰が見てもわかる。
 が、ラレスにそれは通じない。
「やっぱセンさんはいつも黒を着ているから、全然違和感ないよー(もちろんラレスの超独断的感想)。黒のドレスだからセンさんの隠密活動にもまったく支障ないしね。」
 もちろんそういう問題ではないことは誰もがわかっていることなのだが、センは結局何も言わなかった。ラレスに何を言っても無駄なことは、セン本人がよくわかっているからだ。

「あれは・・・僕に対するあてつけ・・・なんでしょうかねぇ・・・?」
 ピュウイとセンを見てはしゃいでいるラレスを、遠くから寂しく眺めているリィレス。
「自分の胸に手を当てて考えてみなさい。」
 セミファスに言われた通り、胸に手を当てるリィレス。
「・・・考えてもわからないから、困っているのですよ・・・。」
 ちなみに、リィレスの衣装もさっきの二人と同じく、ゴスロリである。なぜ彼らがこのような格好をしているのかは・・・後々明らかになるであろう。

 ちょうどその時、体育館の扉をガタガタと揺らす音が響いた。
「マリネが来たみたいね。そろそろ各自、自分の持ち場に着いて。作戦開始よ。」
『おーっ。』
 ハイニの声に、全員が反応する。
「・・・で?」
 皆が持ち場に戻り、閑散とした体育館で、ハイニは凍るような視線を審判役のエイスにぶつける。
「こちらの先輩方二人は、なぜここに居ますの?」
「あう・・・そ、それは・・・。」
「いいじゃない。私たちはただの見学者。邪魔したりはしないわ。ね、ザン?」
 言いよどむエイスに代わって、ティシャが助け船を出す。
「ええ。わたしたちのことは、文字通り空気のようなものだと思ってください。」
 さすがにフェ・インの先輩を、追い出す程の勇気はハイニにはない。ハイニは今日何回目かのため息をつくと、二人の先輩にこれだけは伝えた。
「わかりましたわ。もうここに居るのですから帰すこともできませんし。でも、本当に何もしないで頂けますわね?」
「了解〜♪」
 
「こ、これは・・・『Key Mode Mission』っ!」
「知っているの?マリネさんっ!?」
 
−Key Mode Mission−
 古代戦争時代に発案された軍事訓練のひとつであり、暗闇の中、たった一人で何人もの人間と戦うミッションである。
 ミッションを受けた者は光の閉ざされた建物に入り、襲いかかる者共を退けながら、この建物を出るための鍵を探すのである。
 主に夜間戦闘の訓練が目的であるが、何も見えない、どこから攻撃してくるかもわからないという、恐怖に打ち勝つ勇気を試すミッションとしての側面も持っていたといわれている。

 尚、この訓練がイェドに渡り庶民化し、「肝試し」と呼ばれるようになったことは誰もが知る事実である。
フェ・イン書房・刊「オバケなんていないさ」より抜粋

「面白いわ・・・あのデコっぱち(ハイニのことらしい)、貴女の挑戦、受けてあげようじゃないのっ!」
 マリネは怒り任せに体育館に張られていた紙を強引に破り取ると、くしゃくしゃに丸める。
「・・・にしてはアマネさん、震えているような気がするのですけれど・・・寒いのですか?」
「ち、違うわっ、む、武者震いよ・・・。」
「はぁ、それならよいのですけどぉ・・・。」

 いよいよティア・ハーツ史上、最も騒がしい夜が始まる。


つづく

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