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ネコミミ冒険活劇びーわな!
ティア・ハーツ
第4.5話「続きの番外」(前編)

 実際、マリネは人形の入った鞄を背負い、フェ・インに来ていた。
 とんとんとん・・・と軽やかに階段を上り、屋上近くの生徒会室へと顔を見せる。
「イクスっ、貴方の言っていたサモナとその周辺のティア・ハーツを連れて来たわよ・・・っていない・・・。」
 生徒会室には今、誰一人も来ていなかった。
「あ、マリネ、おはよー。」
 がっかりしているマリネの背後で、明るい少女の声が聞こえた。
「あら、アクア・・・とキッドじゃない。修行は終ったの?」
「修行中だったのを、黒の魔女に強引に呼び出されたんだよ。アクアと一緒にスクメギに行けってな。」
 キッドはそうぶつぶつ言いながらも、それ程嫌がっていはいないようだった。
「キッドはねぇ、久々にイルシャナ様に出会えるから本当は喜んでるんだよぅ・・・。」
 アクアは逆にちょっと不機嫌そうだ。
「あのなぁ、俺は渋々黒の魔女の命令で派遣されるのであって・・・。」
「キッド、いくら同級生だからって、黒の魔女様を呼び捨てってのは良くないわよ。」
「そうだよぅ、シーラ様は私たちの御主人様なんだからぁ・・・。」
「アクアも・・・人前でその名前を出すのはやめなさいよ。」
「う、うぐぅ・・・。」
 アクアは慌てて口を両手で抑える。
「と、とりあえず俺たちはスクメギに行ってくるから、留守中よろしくな。」
「はいはい。」
 マリネはめんどくさそうにそうキッドに返すと、今度はアクアに声をかける。
「アクア、頑張ってね。」
 言われた途端、アクアの顔がボッと赤くなる。
「な、何言ってるのよマリネちゃん・・・。」
「ウフフ・・・。」

 ・・・と、プリンセスガード達が話をしている間・・・。
「今の内に・・・。」
 セミファスの先導で、ティア・ハーツはマリネの鞄から逃げ出していた。
「・・・とはいえ、フェ・インへは一回しか来たことありませんから、どこが出口かは見当がつきませんけどね・・・。」
 セン達三人は、必死に出口までの経路を思い出そうと頭を捻る。
「出口って・・・それって逃げるってこと!?」
 ラレスが三人の前に立ちはだかる。
「逃げたってどうしようもないよ。あの女の子をやっつけなきゃ、元には戻れないんでしょ?だったら・・・。」
「ラレス。」
 リィレスは少し強い口調で彼女を呼ぶ。
「その考えは間違っていない。でも、彼女は闇雲に戦っても勝てる相手じゃないんだ。
 今は一旦後退して、作戦を練るのも戦いのうちだ。」
「むう・・・。リィル兄がそう言うなら・・・。」
「まって!誰か来る!」
 セミファスが口に指を当てる。
「隠れないと!」
 リィレスがそう言うものの、周りに隠れるような場所はない。
「しようがありません。ここは人形になりすましてやり過ごしましょう。」
 ピュウイの提案に、みんなが頷く。

「あら・・・?」
 ハイニ・ランダールはフェ・インの生徒である。黒ウサギのビーワナ(ラビータ)であり、既にアリス姫のプリンセスガードに内定されている才女だ。
 その彼女が廊下を歩いている最中、隅に落ちている数体の人形を見つけた。
「何でこんな所に人形が落ちているのかしら・・・?」
 もちろんそれは人形にされたティア・ハーツである。
 ハイニは廊下に散乱している人形を疑問に思ったが、それが誰のものかはすぐに察知はついた。というか、もともと学校に人形を持ってくるような生徒は一人くらいしか知らなかった。
「マリネね。まったく・・・学校に人形を持ってくるのはいいけど、自分の荷物はちゃんと管理して欲しいわ。」
 彼女は同級生であるラッセの少女を思い浮かべ、ため息をつく。フェ・イン女子寮にある、人形に埋もれたマリネの部屋の状態をハイニは知っているからだ。
 拾ってマリネに渡そう。そう思い、手を伸ばした先で、彼女は一体の人形にクギ付けになってしまった。
「こ、これは・・・。」
 それは虎仮面の人形であった。マスクをつけていても、オジサマスキーの彼女の本能が察知する。
「この人形・・・おじさまの風格を漂わせていますわ・・・。マリネ・・・いい仕事してますわね・・・。」
 彼女は虎仮面のマスクを外し、顔を見てみたい衝動に駆られたが、ぐっと我慢し、急いで他の人形もカバンに仕舞うと、生徒会室とは正反対の自分の寮へと走り出していた。
 マリネに人形を返すことはいつでもできる。
 が、その前にこの虎仮面の人形を自分の部屋に飾りたい・・・そう思ったのである。
「でも・・・もし捨てたのなら、あたしに譲ってくれないかな・・・。
 マリネのことだから、フェ・インのカフェにある金魚鉢パフェ2杯でO.K.っぽい気もするけど・・・。」
 
 ハイニの手に渡ってしまったティア・ハーツ。
 果たして、彼らの運命は・・・。

 つづく

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