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ネコミミ冒険活劇びーわな!
ティア・ハーツ
第4.5話「続きの番外」(前編)

 バサっと幕は降りた。
 リィレスの目の前は赤いカーテンに遮られ、客席の様子は窺えない。
 が、観客には不審な印象を与えただろう。
 正規なら、ジェンダが自分たちを倒して、エンディングに向かうはずなのだから。
 だがジェンダは今、舞台の端で気絶している。自分たちが彼を倒したからだ。
 いや、少なくとも自分ではないか。今は傍らで気を失っているピュウイルが、ジェンダを屈服させたのだから。更に厳密に言えば、最終的に彼を気絶まで追い込んだのは、センの仕掛けたバナナの皮であったりするのであるが。
 観客たちはやはり、打ち切りのような終わり方に不審に持ったようで、ザワザワとしたざわめきが、カーテン越しにも聞こえてくる。
 ・・・が、やがてそれは、不思議にも拍手の渦に変わっていた。
 しかしリィレスには、そんな周りの状況に気を留めている場合ではなかった。ジェンダが意識を取り戻す前に、ほとんど無傷で立っている虎仮面と一緒に、倒れているラレス、セミファス、ピュウイ、セン、エルマ、サモナを舞台から下ろし、逃げなければいけないからだ。
 この水上音楽堂に集まっている観客の女性たちのほとんど全ては、ジェンダのファンの女の子たちである。そんなジェンダにキズだけでなく、顔にラクガキをした自分たちが、彼女たちに見つかりでもしたら・・・。
 そのことを考えるだけで、リィレスの背中にゾクっとした悪寒が走る。
 とりあえず妹だけは脱出させようと、彼は気を失っているラレスを背負う。
「よっと・・・。」
「重そうね。」
 そんな彼の背後から、少女の声がかけられた。
「ええ、知らない間に色々なところが発育して・・・って、君は誰だっ!?」
 振り向いた彼の目の前に、ゴシック調の黒いドレスを着た少女が腕を組んで立っていた。黒い髪を後ろでまとめ、鋭い瞳がじっとリィレスを見つめている。
「君は・・・フェ・インにいたプリンセスガード・・・。」
 リィレスとセン、ピュウイの三人は昨日、情報収集の為にフェインリール魔法学園に侵入し、生徒会室前で彼女に出会っていたのだ。
「あら、良くわかったわね。私は黒の魔女様のプリンセスガード、マリネ。どこかでお会いしましたかしら?」
「いや・・・。」
 その時、自分たちは女性になっていたので、相手が気づかないのも無理はない。
「まぁいいわ。その娘、(特に胸の辺りが)重そうだから、持ち運びやすいようにしてあげるわ。」
 マリネはそう言うと、呪文を詠唱し始める。彼女のイアリングについている土のティア・ハートが、詠唱と共に光りを放ち始めた。
 と、同時にラレスの身体がどんどん小さくなっていく。
「これは・・・。」
「人形にしてあげたのよ。持ち運びやすいようにね。
 ・・・私が。」
「くっ・・・。」
 リィレスは剣を抜く。今さっき、プリンセスガードの一人、ジェンダとの戦いが終ったばかりだ。ティア・ハーツの中で現在戦える人物は、ほとんどいない。リィレスと・・・。
「はっ、虎仮面さんは!?」
 唯一にして、最も頼りになりそうな男は今・・・。
「あら、それってこの方のこと?」
 マリネはポーチから虎の仮面をした人形を取り出す。
「馬鹿な・・・。こうも簡単に・・・。」
 それは変わり果てた、虎仮面の姿であった。
「あなたもこうなるのよ。簡単にね。」
 マリネから放たれた眩しい光に、リィレスの意識は消え去っていった。

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