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ネコミミ冒険活劇びーわな!
〜Excite NaTS-Extra〜
『連なる、断章』

1.四分休符のスタンド・スティル

 スクメギの公邸にほど近いところにある一軒の酒場。さほど大きくないスクメギの、宿屋と酒場と喫茶店を兼ねるそこ。
 穏やかな音楽を背に、イルシャナはフォークを皿へ戻した。
「ごちそうさまでした」
 向かいで食べていたエミュが渡してくれたカップを受け取り、そっと口元へ。
 店主自慢のミルクティーだ。ふわりとした甘みと爽やかな渋みが、口の中で溶け、柔らかく交わる。
「レアちんも一緒に食べられれば良かったのにね」
 エミュが問いかけたのは、竪琴を抱えた少女だった。第一印象は儚げな美少女詩人、といったところだろう。古ぼけた竪琴を奏でる痩せた手足と、それを支える細い体。並より少し上等な服に……
 片目、である。
 伸ばされた髪の下にあるはずの右目が、真っ白な包帯に覆われているのだ。古い傷のようで痛みはないらしいが、痛々しい姿が少女の儚げな印象をさらに際立てているのは間違いなかった。
 その片目の少女の全てが……片目だけは実際に潰れていたが……作り物であり、計算された演技と知る者は、このスクメギにはいない。何しろ、本当は少女ですらないのだ。
「……詩人が食事時に食べてたら、仕事にならないよ」
 そっか、と無邪気に笑う少女の様子に、自然と笑みが浮かぶ。
 もう一口、ミルクティを口に。
「そういえば、イルシャナさまぁ」
「何かしら?」
「王都って、どんなところ?」
 エミュはもともと地方育ちだ。冒険者だった両親と別れ、自らの一人前の冒険者になるべく王都にやって来たのだが……王都に着いてすぐにシーラの依頼を受けてしまったため、名高い水の都のほとんどを見ていない。
「どんなところ……ねぇ。エミュは、王都のどんな所が知りたいの?」
 言われて、イルシャナも首を傾げた。こちらは生まれてずっと王都で育ったため、エミュとは逆にどこが珍しいのかが分からない。
「んーとね。ポク、王都の事全然知らないから……イルシャナさまのお話なら、何でもいいよ」
 あまりに漠然とした答えに思わず苦笑。観光名所の話、などと指定してもらえれば分かりやすかったのだが……。
「そう。じゃあ、他に聞きたいところがあれば、言って頂戴ね?」
 そう前置きして、イルシャナは口を開く。

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