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獣甲ビーファイター
エピローグプロローグ1
“『赤』の後継者”

 爆炎が空を舐め、大地を焼き尽くした。
 フレア。太陽を喚び出すに等しい破壊力を持つその古代魔法は、本来なら数千の敵を一度に葬り去るために使われる術だ。それを至近距離で食らえばどうなるか……。
「……むぅ」
 自らの杖『三聖頌』が宙に消えていく中、蛇族の老爺は静かに息を飲んだ。
 焦熱に硝子化した砂丘の上、ゆらぐ陽炎をまとって立ったその姿。
 炭化し形を亡くしたコートを捨てる、その姿に。
「なるほど。今の英雄の実力はこの程度か」
 頭から爪先、指先までを隙無く覆う、漆黒の全身鎧。
 キッドの力が切れ、最盛期の力を失った後の術とはいえ、太陽の灼熱を受けて小揺るぎもしないその強さ、硬さ。
「バカな……貴公ら……まさか……まさかッ!?」
 その正体に思い当たりがあるのだろう。老爺の蛇の瞳は、今までにない驚愕に見開かれている。
「ならば、少しばかりハンデをくれてやらねばならぬか」
 どす。
「赤……の……」
 老いた体では視認さえ出来ぬ一撃。元の姿に戻ったティア・ハートの砕ける衝撃が体を貫き、かろうじて繋ぎ止めていた意識をあっさりと吹き飛ばす。
 暗転する意識の中、リヴェーダの脳に男の冷たい声が響き渡った。
 次に狙うは、ココ王城である、と。


 深い森を走りながら、黒い仮面を被ったそいつは女の声でくすりと笑った。
「遊びすぎたかしら。またヴルガリウスに叱られるわね」
 傍らを走るのは黒い甲冑をまとった細身の男。
 全身を覆う甲冑をまとっているというのに、フォルミカの足が鈍る気配は全くない。むしろ、黒いコートを着ている時よりも軽快に走っている。
 この黒甲冑が男の表皮だと誰が信じられようか。アルマジロ族や亀族のような有機的な甲羅ではない。ビーワナ種にはあり得ない、金属光沢を持つ漆黒の外骨格が。
「少しは刺激がないと詰まらんだろう」
 フォルミカがそう言った瞬間、アルジオーペの顔に小枝が当たり、表情を隠していた黒い仮面がはじけ飛んだ。くるくると宙を舞う黒仮面だが、地上に落ちるよりも早く彼女の放った粘糸に絡め取られ、瞬きする間に手の中へ。
「ふふっ。そうよねぇ」
 やはりビーワナ種にはあり得ぬはずの複眼をすいと細め、蜘蛛の美女は不吉な笑みを浮かべるのだった。

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