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読者参加型プライベート・リアクション
ユノス=クラウディア
第3話 そして、巻きおこる嵐(その13)



Act14:きみがまもりたいもの

 「貴公に幾つかお聞きしたいことがあるのですが……」
 竜の背中の上で、シークは黒鎧の騎士に声を掛けた。
 「何だ?」
 この竜を操るには特に難しい操作は必要ないらしい。軽く手綱を握っただけの姿勢
で、マナトは後ろのシークへと返事を返す。
 「一つは、あなた方の事です」
 「ユノスから聞いていないのか?」
 「私達の世界にも、あなた方についての話は残されています……」
 シークは手短に、この世界での『霧の大地』の事をマナトへと話して聞かせる。山
へと去った神のこと、不死身の戦士のこと、そして、大地の奥の力のこと。
 「私は初め、あなた方が神だと思っていました……」
 「初めは神だったのだろうな……」
 シャーレルンには伝わらぬ秘儀『カガク』。不死身の戦士を生み出し、完全に人の
力だけで環境を変えられるほどの力。それを操っていた者は、確かに『神』と呼ぶに
相応しい存在なのかも知れない。
 「だが、今の神は『あいつ』だ」
 霧の大地の人工環境を一手に管理する存在『バベジ』。彼が暴走さえしなければ、
マナト達もこういう形で外界の民と接することはなかったのだろう。
 血の尽きた霧の大地を捨てることになったとしても。
 「我々は、神に逆らおうとするただの愚か者さ」
 それも、大量のディルハムを相手にたった三人だ。すでに無謀を通り越して、正気
の沙汰とは思えない。
 自嘲気味に笑うマナトに、シークはもう一つの問いをぶつける。
 「それから……」
 地上を鋼鉄の猿で移動しているナイラと、大地亭にいるはずのユノスの事。
 確かに人手は足りないのだろうが、何もあのような女性達までこんな過酷な戦いに
身を投じさせることはないではないか。ユノスに至っては、まだ15にも達していな
いのだ。
 「話は後で聞こう。着いたぞ」
 「……」
 竜を下降させ始めたマナトに、シークは無言で冷たい視線を送った。


 ルゥがクレスの治癒術で意識を取り戻したのは、ユノスが大地亭に侵入してきたデ
ィルハムを全て倒してからの事だった。
 「あ……」
 目の前に広がるのは、心配そうなユノスの顔。
 「ご主人さま……」
 ぱしん……
 そのルゥの頬を、ユノスは思いっきり張った。
 「え……?」
 突然の事に、ルーティアは呆然と呟く。
 「ルゥちゃんのバカ! 何で……何でこんな危ない真似したのよ!」
 右手を振り切った姿勢のまま、泣きそうな声で叫ぶユノス。
 いや、泣きそうではなく、泣き始めた。
 「だって……ご主人さまが危なかった……」
 突然の、既視感。
 (これって……ルゥと……同じ?)
 ルゥをかばって死んだ前の主にすがり付いて泣いている自分の姿が、子供のように
泣いているユノスとだぶる。
 「ごめんね……ご主人さまぁ……」
 そして、ルゥも大きな声で泣き始めた。


 「アズマくん……大…丈夫?」
 鉄屑と化した指揮官級ディルハム……トゥグリクの前でぼうっと立っているアズマ
に、ラーミィは恐る恐る声を掛けた。
 だが、返事はない。
 アズマが一瞬のうちに2体の兵卒級ディルハムと指揮官級ディルハムを破壊してか
ら、既に数分の時間が経っていた。その間、アズマは微動だにしていないのだ。
 「アズ……マ?」
 さすがに心配になったラーミィはそおっとアズマの顔を覗き込もうとして……動き
を止めた。
 (震えてる……?)
 アズマが、震えている。
 どんなに絶望的な戦いを前にした時にも常に余裕のある態度を崩さなかった、あの
アズマがだ。
 「ラーミィか……」
 疲れ切ったような口調で、アズマはぼそっと呟く。
 「アズマくん、大丈夫? どこか痛いの?」
 真剣に問いかけるラーミィに、ゆっくりと首を横に振るアズマ。
 「いや……。恐いんだ」
 「恐い?」
 「ああ。今の力……見ただろ?」
 本能の赴くまま、思いのままに振るった、先程の力。指揮官級の強力なディルハム
すら一撃の元に葬った、恐るべき力だ。
 それが暴走したら、どうなるのか。
 守るために欲した力が、全てを滅ぼすための力になってしまうのではないか。
 そう思うと、震えが止まらないのだ。
 「大丈夫だよ……」
 そんなアズマに、ラーミィは抱きついた。
 「ラー……ミィ?」
 「アズマくんなら、大丈夫……。ボク、信じてるもん」
 アズマの胸に顔を埋めたまま、ぽつりと呟く。
 「そうだな……」
 そんなラーミィを抱き返しながら、アズマは明けつつある空を見上げ、言葉を紡い
だ。
 「血の……力か……。まあ、兄貴にはかなわねえけどな」


 「これでよし……と」
 眠っているティウィンを彼の部屋のベッドに放り込むと、青年は軽く両手をはたい
た。どうやらディルハムの方も全部片づいたようだし、後は自分も部屋に帰ってゆっ
くり眠るだけだ。
 大きく開いた窓から、入った時と同じように身軽に出ていこうとする青年。
 「あ……あの……」
 と、そこに掛けられた、小さな声。
 「?」
 消え入りそうな声に、青年はふと振り向く。
 「マスターを助けて頂いて、ありがとうございました……」
 そこにいたのは、一人の少女。ティウィンより少し小さめの少女が、いつの間にか
部屋の中に現れていたのだ。
 「……」
 その少女がティウィンにくっついていた小さな妖精……ザキエルの真の姿だと、青
年は気付いたのだろうか。
 無言で窓から飛び出し、そのまま何処かへと消える。
 「……消えちゃっ……た?」
 慌てて窓に駆け寄るザキエルだが、どこの屋根にも青年の姿はもう見られない。
 「はぅぅ……お礼言おうと思ったのに……」
 ザキエルは最後まで気付かなかった。
 唐突な女の子の出現に思わず凍結してしまった青年が、今も窓の下に硬直したまま
転がっている事など。
続劇
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