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[5/15 PM 0:50 帝都飛び地一区 新帝都国際空港 駐機場]
「ええ。こちらでも確認したわ」
 遥か西の向こう。天を灼く輝きを眺めながら、ウィアナは携帯の向こうの相手にそう返
した。
 携帯の向こうは帝都外縁。空港とほぼ同時に出現した2体の『ザッパー』を追跡してい
たエージェントからの報告だ。
「そう。光が収まり次第、バスターの『紫』を回収なさい。ええ、浄化系の使い手とは合
流できてるわね? そう」
 ちらりと周囲を見回し、ウィアナはため息と共に言葉を続ける。
 シグマの身体は砂となって崩れ落ちたが、不思議なことに砂は全て風に散り、痕跡すら
残っていなかった。ただ燃えさかる飛行機が散乱し、ようやく駆けつけた化学消防車が大
量の消化剤を浴びせかけているだけだ。
 この光景を見ただけの人間で巨大怪獣が暴れ回った後だと信じるものはいないだろう。
ほとんどは飛行機事故、残った者もどこかのテロリストの起こした破壊活動だと思うはず
だ。
 死んだ後は灰さえ残さぬ。それも、『守護神』の能力の一つ。
「ええ。こちらも何とか、ね。これから撤収するから、詳細はその後で聞くわ。それじゃ」
 大破した『キャメロット』を運び去るトレーラーと併走していた大型車からエージェン
トが降りてくるのを見、ウィアナは電話を切り上げた。
「『キャメロット』及びパイロット二名の回収、終了しました。ヴァイス・ルイナー達は
御角雅人の誘導により先行して脱出しています」
 こちらに歩いてきたウィアナに従うように、エージェント。
「ご苦労様。予定通りに撤収して頂戴」
 報告を聞く間も足を止める気配はない。相手も当然という風に車のドアを数歩先行して
開き、ウィアナを中へと招き寄せる。
「蘭達の容態は?」
「2人とも打撲、宮之内は脳震盪を少し、という所です。一応、組織の病院に検査入院さ
せるよう手配しておきましたが……」
 まあ、問題はなさそうだ。
「そう」
 安堵のため息を出すこともなく、淡々と受け流す。いくら腹心の部下の前とはいえ、一
人の部下だけの安心に涙するわけにはいかないからだ。
「それと……」
 と、ふと思い出したように、傍らのトランクから何かを取り出してみせるエージェント。
「これは?」
 透明な樹脂のカプセルに入ったそれは、一本の鍵。一般に出回っている鍵ではない。南
京錠のようなごく古い型の鍵だ。
「どうしましょう」
 僅かに柳眉を寄せ、すぐに決めて答える。
「そうね。帝都の研究室に送って。一週間以内にチェックを済ませて、私に。他の件は全
て後回しで構わないわ。最優先でお願い」
「了解しました」
 全ての報告を聞いて指示を送ると、ウィアナは静かに瞳を閉じた。
(龍の中より出しもの……『草薙』、か。まさかとは思ったけれど……)
 帝都に到着するまでの数十分ほどの時間。
 その時間こそが、世界で最も忙しい女性のひとときの休息時間になるはずであった。
第7話/裏 終劇
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