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19.モンスター・ハンター

 黒赤色の鱗を持つ飛竜から降りてきたのは、金髪の少年と巨漢の二人組だ。
「久しぶり! レイジ、良宇!」
 事前に雪の情報は得ていたのだろう。コートの襟を片手でかき合わせつつも、二人はこちらに元気よく手を振っている。
「………随分いい顔になったな、悟司」
「まあ、色々あったから……ね」
 良宇の言葉に、悟司はわずかに苦笑い。
 越えられた試練と、今から越えるべき試練。一応の区切りこそ付いたが、まだまだ目指すところにはほど遠い。
「あれ、レム達も来てたのか?」
「……まあ、色々あってな」
 予想外の顔ぶれに驚くレイジに、レムは苦笑を返すしかない。
 ほんの数日のはずなのに、彼にとっても多くの事がありすぎた。それはこの場にいる誰と比べても、勝るとも劣らないほどだ。
「なんだい。随分とまあ、増えたもんだね」
 そんな男達の元に姿を見せたのは、館の主たる老女。
 メガ・ラニカに住まう百万の魔法使い達を仕切る、大魔女が一人。
 大ブランオート。
「すみません。お世話になります」
 呆れたような老女の様子に、新参の二人はそう言って一礼。
「まあ、寝床くらいは貸してやるからゆっくりしておいき。ただし、夕飯の材料は自分たちで何とかしておくれよ?」
「働かざる者、食うべからず、だそうですよ!」
「むぅ……そうなのか」
 大魔女と真紀乃の言葉にレイジが浮かべたのは困惑だ。
 この一連の旅で、彼が会える機会のあった大魔女は三人。
 だが、実際に会えた大魔女は彼女が初めてなのだ。
 もちろん、メガ・ラニカ人とはいえ大魔女に面会できる機会などそうそうあるはずもないのだが……だからこそ確かめたい事は山ほどあった。
 それを確かめる時間が手に入るなら、食事を抜く事など惜しくはない。
「そんなわけで、俺達は晩飯の狩りに行ってくるけど、レイジはどうする?」
「残る奴はいるのか?」
 その問いに、男達の中で手を挙げたのは悟司一人だけ。百音の家でパンを焼いてきたそうで、それで夕食は賄うのだという。
「なら、俺も……」
 そう言いかけたレイジの手を抑えるのは、太い腕。
「狩りは俺が行こう。難しい事は、お前に任せる」
 レイジの旅の目的は、彼の家に伝わる伝承の真偽を確かめるためだと。良宇はずっとそう、思っていた。
 しかしレイジの探索は、ローゼリオン家のエドワードからその答えを得た後も止まらずにいる。
 彼が何を求めているのか、それは良宇には分からない。
 だが分からずとも、出来る事は……あるはずだ。
「……悪ィ」
 交わされる視線に、良宇は頷きをひとつだけ。
「レイジ。俺の伝書鳩、ちゃんと届いたか?」
「ああ。その辺りもコミで、セイルの婆ちゃんに色々聞いてくらぁ」
 そう問うレムは、既に腰に双刀を佩いていた。彼もレイジと同じく調べたい事を多く持っているはずだったが、既に今までの滞在で何らかの答えを得ているのか、真紀乃達と狩りに向かうらしい。
「………準備、いい?」
 そして狩りに向かう一同は、セイルを先頭に雪に覆われた森の奥へと消えていった。
「で、あんた達は……色々と聞きたいことがありそうな顔だね」
 残っているのは二人だけ。
 少年達を視界に留め、雪山の大魔女はそうひと言。
「悟司。お前からでいいぜ」
「なら……」
 レイジにそう促され、悟司が口を開いたところで……。
「ちょいとお待ち。あんた達、ウチの家訓は聞かなかったかね?」
 大魔女の言葉に、少年達は顔を見合わせる。


 洞窟の壁面が失われたのは、果たしていつ頃だったのだろうか。
 今の二人が歩いているのは、淡く輝く白い霧に覆われた、ひたすらの平地。
 平地、である。
 足元に地面があることだけは理解できるが、それが何で出来ているかは、白い霧に覆われて見通すことも出来ずにいる。
 しゃがむなりして地面をちゃんと確かめればいいと思うだろうが……。
 今の彼らに、そんな余裕があるはずもなかった。
「ちょっと! 何だよ、あれ!」
 白い世界に形を見せるのは、少年の姿と、少女の姿。
 そして、砂色の触手。
 無数のそれをわさわさと波打たせて進むそれを背にしてハークの口から漏れるのは、悲鳴に似た叫びだけ。
 背中のバッグから、既に翼は展開済みだ。
 全速力のはずなのに、触手の怪物との距離は広がることも、縮まることもない。
「そんなの知らないわよ! ハークくんの方が詳しいんじゃないの!」
 ハークの隣で叫ぶのは、やはり飛翔の魔法を使っている晶だった。やはり限界速度を出しているのだろう、時折不安定になるその姿勢を、両手を振り回すことで何とか保っている。
「知ってたら言ってるよ!」
 無数の触手を束ねる位置にあるのは、土色をした花びらともたてがみともつかぬもの。その中央に無数の牙が円上に並んでいるあたり、そこが頭部で、少年達の体など簡単にムシャムシャできてしまうだろう事だけは容易に想像が付いた。
 その怪物は、ローゼリオン家の薔薇園を守る『薔薇獅子』の名を冠されたそれに酷似していたが……ローゼ・リオンを直接目にしていない二人がそんな感想を抱くはずもない。
「ちょっと! 大丈夫なんじゃなかったの!?」
 洞窟に入るとき、確かに晶はそう言った。
 大丈夫だって、と。
「何ともならないわよあんなの!」
 だが、晶はその発言をゼロ秒で撤回した。
「ハークくんこそ何とかしてよ、男の子でしょ!」
「どんな無茶振りだよ!」
 砂色の薔薇獅子との距離は、縮まることも、離れることもない。
 上に逃げるという手は、上空がどうなっているか分からない以上、リスクが大きすぎた。何せ元々は洞窟だった場所だ。天井にぶつかって落ちでもしたら、それこそ一巻の終わりとなる。
 とにかくこの場は、この状況を維持するだけで精一杯だ。


 働かざる者、食うべからず。
 それが、ブランオート家の鉄則だ。
 そして仕事は、なにも狩りばかりではない。
「ほほぅ。なかなかいい手際じゃないか」
「それは、どうも」
 吹き上げた窓に映る老女の姿を視界の隅に、悟司は次の窓を拭こうと雑巾を取り上げる。
 ちなみにレイジは、やはり雑巾を持って床を拭いていた。
 清掃の魔法は掛かっているし、魔法で動くホウキもある。だが時には人の手で磨いてやるのが、良い手入れなのだという。
「しかし、シルバーバレットとはね。月瀬にミスリルの揃えをやってから、返す気がないからどうしたのかと思ってたが……。あと何発残ってるんだい?」
 応接間のソファーに優雅に腰を下ろし、大ブランオートは良宇達がお土産として持ってきた緑茶をすすっている。日本の食べ物も、結構いける口らしい。
「八発です。月瀬さんからもらったときは、十発あったはずなんですが……」
 悟司がその弾丸を青年から受け取ったのは、もう随分と前のこと。
 長い間の練習の積み重ねで、使いこなせるようになったのは現在ようやく四発だ。しかしその間に、二発の弾丸が彼の制御から完璧に外れ、行方不明となっていた。
「そうかい。もう残りはないから、大事にお使いよ」
「ないん……ですか?」
 シルバーバレットの創造者は目の前の老女だと、百音の祖母から聞いていた。創造者ならば、予備の弾丸を持ってはいないだろうか……と、わずかに期待を抱いていたのだが……。
「ないよ。もともと二発ほど、予備の弾があったんだけどね。それも、無くしたって言うから月瀬にやっちまったんだよ」
 それを合わせての、残り八発だ。
 レリックは不壊の特性を持つから、使い潰す事は無いとは言え。今の状態では、それ以上の手数は期待できないことになる。
「もう何年前になるかね……セイルが生まれた頃だから、もう十六年ほど前になるか」
 十六年前に生まれたのは、当然ながらセイルだけではない。狩りに出ている面々や、館に残って夕飯の支度をしている百音やリリも、当たり前だかその年生まれ。
 さらに言えば、華が丘高校の魔法科が設立された年でもある。
「なあ。その月瀬って人、悟司の話じゃ相当な使い手だったみてえだが……何をどうしたら、レリックの弾丸が無くなるんだ?」
 床にこびり付いた汚れをこすり落としながら、ふと、レイジが口を挟んできた。
 レリックは強い魔法によって構造が強化されており、生半可な衝撃では壊れない。レムの刀はどれだけ刃を交えても刃こぼれ一つ起こさないし、悟司の銀弾は何度その手から放たれようとも、普通の拳銃弾のようにその形を歪ませることはない。
 さらに言えば、シルバーバレットは遠隔操作型のレリックだ。仮に手の届かない場所に落としたとしても、制御を失わない限り念じれば手の内へと戻ってくるはず。
「正確には、取れなくなっちまったって言ってたね」
「そんな所があるんですか? 華が丘に」
 高い木の上、穴の中、激しい水流の奥深く。
 思いつく場所はいくつかあったが、どれも空を飛ぶなり、念動の魔法で引き寄せるなりで解決できそうな場所だった。仮に本当になくしたとしても、心当たりがあれば探査の魔法で位置は絞れるはずだ。
「ないわけじゃないさ」
 悟司のように、心当たりすら分からないならともかく、そんなところがあるのだろうか。
「例えば、天候竜とかね」
 首を傾げる二人に、雪山に住まう大魔女は、ぽつりとそう、呟いた。


 北方の夏は短い。
 数日前から降り始めた雪は既に一帯の森を銀世界へと変えており、そこに住まう獣たちにも、冬支度を迫ることとなっていた。
「あれが……獲物か?」
 河原を望む茂みの中で。風上となる位置で水を飲んでいる巨大な獣の姿に、良宇はごくりを息を呑む。
 牛やサイのような大型の哺乳類に、亀の甲羅を被せたような姿をした生物だ。全体的に白みがかっているのは、雪の中で行動する時の保護色とするためだろうか。
「アプケロスの雪上種だな。周りに仲間もいないみたいだし、妥当なところじゃないか?」
 どうやら既に何度か狩りの経験があるらしい。
 レムの状況確認に、セイルも無言で頷いてみせる。
「どうやって狩ればいいんじゃ。殴ればいいんか?」
 対する狩り初体験の良宇は、他に選択肢が思い浮かばない。
「…………やってみる?」
「おう!」
 呟いたセイルの言葉に良宇はむくりと立ち上がると。
「でええええええいっ!」
 そのまま、まっすぐに突っ込んだ。
「え、いや、ちょっと!」
 真紀乃が止める暇もない。
 辺りを震わせる咆哮と共に、良宇は黄金の輝きを身にまとう。そのまま大きく拳を振りかぶり、咆哮に気付いてこちらを振り向いたアプケロスの額を……。
 出会い頭に、ぶん殴った。
 鈍い打撃音が辺りの雪山に木霊して。咆哮に続くその打音に、森から鳥の群れがばさばさと飛び立っていく。
「むぅ……っ! コイツ、硬いぞ!」
 普段なら突き抜けるはずの手応えは、角質化した額の浅部に留まったまま。むしろ良宇の腕の側に、鈍い衝撃を弾き返してくる。
 今までにない事態に動きを止めた良宇に向けられるのは、甲殻獣からの反撃だった。
「おわぁっ!」
 天然のヘルメットをかぶった大型が放つのは、その場で繰り出す助走ゼロのかち上げだ。低い体勢から放たれたそれは、良宇の腹を下から上へと打ち上げるように叩き込まれる。
 速度はなくとも、重量も、硬度もある。直撃すれば内臓破裂は免れないそれを、かわせる距離ではとてもない。
 だが致命となるその一撃が、良宇の腹を打ち抜くことはなかった。
「維志堂さん!」
 甲殻獣の鼻っ柱を横殴りに打ち抜いたのは、三十センチほどの人型のメカニック。軽い威力を魔力と速度でカバーしたその一撃は、梃子の原理で巨獣の首の攻撃を良宇の腹からその脇へと強引に軌道修正する。
「お、おうっ!?」
 その隙に良宇は巨獣の間合から離脱。
 対する巨獣は既に良宇の事など眼中になく、目の前を飛び交う小さな『何か』を追うことに全霊を傾けている。
 そしてテンガイオーの軌道が、アプケロスの眼前から上へと変わった。
 巨大獣がその動きに追従すれば、首の位置は必然的に上方へ。
 さらにその追撃を行えば、前半身がゆっくりと上がり、さらにさらに追っていけば、やがて後ろ脚で立ち上がる形となる。
 それが彼女の狙いだと良宇が気付いたのは、立ち上がった巨獣の腹に細身の影が飛び込んだ瞬間だ。
「でええいっ!」
 レムの両手から放たれたのは、十字を描く銀光だった。
 同時に全身を駆けめぐる雷撃に巨獣は咆哮を上げることすら出来ず、連なる風が棒立ちの巨体を背中の側へと押し倒した。
「…………いただきます」
 最後に巨獣の意識を断ち切ったのは、振り下ろされた鉄槌の一撃だ。


「天候竜って……?」
 華が丘に住むもので、その名を知らぬ者はいない。
 彼の街の空を優雅に舞う、天の気にマナが感じて産まれた天候の化身。殊に華が丘の天候竜は他の魔法都市やメガ・ラニカよりも強くこの世界に実体を現わしており、両の世界で最も大きく、美しい天候竜だと言われている。
「あれの話が本当なら、額あたりに今でも残ってるはずだよ」
 確かに、天候竜が地上に降りてくる事などほとんどない。そもそも天候竜の舞う高さまで上昇するだけでも大変なのに、そこからさらに弾丸を取り出す作業をするなど、不可能に近い。
「けど、天候竜なんて何もして来ねえだろ。その月瀬って人は、何で弾丸を撃ち込むようなバカな真似をしたんだ?」
 レイジの言葉に、悟司が巡らせるのは推測だ。
 空飛ぶ天気予報。
 それが、華が丘の住民の持つ、天候竜のイメージだった。
 実際、天候竜は空から降りてくることすら希で、降りてきたところで何をするわけでもない。
 そんな無害な相手に、月瀬は何を考えて銀弾を撃ち込んだのか。
「天候竜を追い払う……もしくは、戦う必要があった…………?」
 銃を向け、弾丸を放つというのは、そういう事だ。
 自信過剰な人物なら、天候竜に勝負を挑むなどと調子に乗って、銃弾を向ける事もあるだろう。だが、悟司の記憶の中の月瀬は、そんな人物ではなかったはずだ。
 ならば、銃を向けられる原因が、天候竜の側にあったという事になる。
「まさか………人を、食べたとか?」
 レイジの頭に浮かぶのは、ローゼリオンの手記の記述。
 かつてメガ・ラニカの天候竜は、暴走し、人を食らったという。
 その竜を退治した者こそ、ローゼリオンの父祖であり、レイジの先祖である……と。
「………天候竜は人は食わないよ。それをよく知ってるのは、華が丘に住んでるおまえ達の方だろう?」
 だが、レイジの呟きを大ブランオートはつまらなそうに否定する。
 嘘だ。
 そして、彼女はその真実を知っている。
 二人の少年はそう感じたが。
 英知と経験を積み重ねた大魔女の護りを打ち破れるだけのカードを、彼らはまだ、持ち合わせてはいなかった。


「大丈夫か? 良宇」
「お、おう……」
 動かなくなった巨獣を呆然と見つめたまま。良宇は掛けられた声にも、そんな返事しか出来ないまま。
「……俺の拳が、通じんかった」
 握りしめれば、打点となった辺りにはうっすらと血がにじんでいた。
「アプケロスの皮膚はそこらの鎧よりも硬いからな。パンチで怯ませられただけでも、大したもんだぜ」
 それどころか、普通ならば拳が潰れてもおかしくはないのだ。そういう意味では良宇の拳は常人のレベルをとっくに凌駕しているのだが……。
「そうか……」
 レムの言葉も、今までどんな事態も拳一つで切り抜けてきた巨漢にとっては慰めにもならない。
「維志堂くん、危ないっ!」
 その、刹那。
「むっ!」
 響き渡る真紀乃の声と、最後の力を振り絞って放たれたアプケロスの尻尾が良宇に向かって振り抜かれるのは。
 全くの、同時。
「良宇!」
 巨獣を屋敷へと運ぶため、一同は既にレリックをストラップの姿へと戻している。無論、この一瞬でレリックを抜き打つことなど不可能に近い。
 そして傷心の良宇も、反応が追いつかないまま。
 魔力をまとい、気を張って、腹に力を籠めたからこそ、弾かれた拳は擦り傷だけで済んだのだ。だが、その一切を準備していない今の良宇が巨獣の死力を受ければ、勿論無事で済むはずがない。
 だから。
「でええええええいっ!」
 真紀乃は、拳を振りかざす。
 その内に輝くのは、首から下がっていたはずの螺旋の首飾り。テンガイオーとセットになっていたそれを反射的に握り込み、叫びと共に残る魔力を叩き込む。
 力の加減などする暇もない。
 ひと息に流し込まれた膨大な魔力に小さな首飾りは軋み、生まれた歪みが無数のヒビを生み出していく。
 その内から溢れ出した力は表層に刻まれた螺旋の溝を伝い、描く軌道のままに収束し。良宇に向かって鞭の如くしなり、撃ち込まれる尻尾を、螺旋の刃となって断ち切った。
 ど、という重い音は、セイルの放った今度こそのとどめの一撃と、裂断された巨獣の尻尾が川の中程に落下した、二つの音。
 ちり、という小さな音は、力の全てを放ち終え、その形すら失った首飾りの落ちる音。
「大丈夫……ですかっ?」
「お………おう………」
 一瞬の出来事に、良宇はやはり、そう呟くことしか出来ずにいる。


 ブランオート家の居間の扉に響くのは、遠慮がちなノックの音。
「フィアナさま。セイルくんたち、戻ってきましたけど……」
 中を覗き込んでくるリリの言葉に、老女はゆっくりとソファーから身を起こす。
「そうかい。なら、そろそろおまえ達も台所にお行き。獲物が捕まえられたのならば、捌くのは私の仕事だろうさ」
 働かざる者、食うべからず。その家訓は、当然ながら彼女自身にも適用される。今まで何もしていないのだから、狩りに行った孫達から次の仕事を引き継ぐのは、彼女の役目だろう。
「あの……最後にもう一つ、いいですか?」
 悟司の言葉に、大魔女はため息を一つ。
「なんだい、質問が多いね。で、そっちのあんたはいいのかい?」
 掃除の間、質問をするのは悟司ばかりで、レイジは一つの問いかけもしていない。時折言葉を挟みはしていたが、その程度は質問のうちには入らないだろう。
「大丈夫です。悟司、ついでだから聞いとけ」
 譲ってくれたレイジに礼を言って、悟司は最後の問いかけを紡ぐ。
「では……百音さんに作ったレリックって、一体何なんですか?」
 悟司と百音がこの館に着いたとき、百音は彼女に随分と丁寧なお礼を言っていた。何やらその合間には調子がどうだの、調整がどうだのと入っているのが……耳に入ってしまったのだ。
 だが、百音がレリックらしきものを使っている様子は見たことがない。無理に詮索するわけではないが、大事なパートナーのことだ。気にならないわけがなかった。
「女の子の秘密を嗅ぎ回る奴は嫌われるよ。それにそんなの、フランの孫に直接お聞き」
 そう言い残し、フィアナは居間を後にするのだった。


続劇

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