|
11.華が丘高の教師たち 『ほぼ』つつがなく終わった入学式の後。 魔法科一年A組の教室に入ってきたのは、入学式の直前、ジャージ姿でうろついていた女教師だった。 もちろん今はスーツだが、着慣れていないのだろう。あまり似合っているようには見えなかった。 「一年A組担任の兎叶はいりです。担当教科は体育。これから一年間、楽しく行きましょう!」 元気よく両腕を振り上げれば、肩の辺りでびり、という不吉な音が響き渡る。 「じゃ、まずはクラス委員長決めましょっか」 だがあえて、無視した。 「一学期はメガ・ラニカの子とか、ほとんど初対面だから、先生が決めさせてもらうわねー」 一同が委員長選出どころの空気ではないのを知らんぷりで、はいりは辺りをぐるりと見回すと……。 一人の少年の所で、視線を止める。 「そこの君。名前は?」 「えっと……森永祐希、です」 立ち上がった祐希ににっこりと微笑むと、満足げに頷きをひとつ。 「じゃ、君が委員長。よろしくね!」 「…………は?」 あまりといえばあまりに唐突な宣告に、祐希はそんな間の抜けた返事しか返せない。 「あたしの勘は良く当たるのよ。君が委員長なら、クラスはきっと上手くいく気がするのよね。……お願いできるかな?」 祐希は半ば混乱しつつ、級友達の顔を見た。 半数はメガ・ラニカの知らない顔だったが、残り半分のそのさらに半分ほどは、顔見知りとも言える連中だ。 その全員が、祐希が適任だという顔をしていた。 「……はぁ。分かりました」 半ば諦めを含んだ祐希の言葉に、教室からわき上がるのは一斉の拍手。 「あとは治癒魔法使える子……そっちのあなたと、あなた。名前は?」 「え……? 水月晶、ですけど……」 「リリ・クレリックです」 二人は顔を見合わせ、首を傾げた。 クラスの半数以上も、委員長選出の湧き上がりもどこへやら、不思議そうな顔をしたままだ。 「あなた達には保健委員をお願いしたいのよね。魔法科ってさっきの式みたいな事がちょくちょくあるから、軽いケガが絶えないの。やってくれるかしら?」 だから、治癒魔法の使い手が保健委員なのだろう。 適材適所というやつだ。 が。 「それは、いいですけど……兎叶先生。一つ質問、いいですか?」 「はいりでいいわよ。どうぞ?」 「じゃ、はいり先生。なんであたし達が治癒魔法使えるって分かったんですか?」 リリの両親ははいりと同級生だから、その関連で彼女の魔法を知っている事はあるだろう。 しかし、晶ははいりと大して面識がない。菫のカフェで話をした事くらいはあるが、その程度だ。もちろん、自分の魔法を明かすほどの仲ではない。 なら、どうして……? 「言ったでしょ。あたしの勘は、良く当たるって」 にこりと微笑み、はいりは教室の脇にあった椅子に腰を下ろす。 「それじゃ、委員長さんに最初の仕事。今からのオリエンテーションで必要になるから、クラスを三つの班に分けてくれるかな?」 「三つって、適当でいいんですか?」 適当でいいなら、縦か横に教室を三分割すれば終わってしまうのだが……。 「お任せするけど、男女と出身のバランスが良くなるようにね。よろしくっ!」 そしてはいりが元気よく手を振り上げれば。 再び肩口から、不吉な音が響き渡るのだった。 ○ 伏し目がちな瞳が一点で止まり、すっと顔を上げる。 「今年の代表挨拶をした、レイジ・ホリンくん。いるかしら?」 凜と通る静かな声は、広い教室の奥までひと息に抜け、生徒の背筋を無意識のうちに伸ばさせる。 「はい」 その中で立ち上がるのは、細身の少年だ。 「一学期の主要な委員は担任の私が決めて良いことになっているの。今期の委員長を、代表を務めた君に頼みたいのだけれど……構わなくて?」 教師の言葉にレイジは小さく唸り、短い金髪をぽりぽりと掻いた。 「そいつぁ光栄な話じゃああるんですが……雀原先生。俺、生まれも育ちもメガ・ラニカなんで、こっちの事とか、よく分からねえんですが。……それでもいいですかい?」 軽い態度ではあるものの、眼鏡の奥、灰色の瞳に宿るのは、静かに燃える強い光。 「なら決定ね。委員長は、補佐として二人の副委員長を指名できるの。みんな会ったばかりで日は浅いでしょうけど……クラスの中に助けてくれそうな人はいる?」 「なら………鷺原と、ソーア」 レイジは呼ぶ名を迷わない。おそらく、雀原から話を切り出された瞬間から、その内の選択肢は決まっていたのだろう。 「僕!?」 「オレかよ!」 もちろん二人はそんな事は予想外。 呼ばれた二人も教師の視線に、おそるおそるといった様子で立ち上がる。 「二人とも、せっかくの指名だけどどうする? ホリンくんを助けてくれるかしら?」 雀原もレイジも、強制はしない。 仮にここで断ったとしても、レイジとの友情に亀裂が入るようなこともないだろう。 「………わかりました」 「ま、頼まれたら嫌とは言えないな」 「恩に着るぜ、二人とも」 だが、そこまで割り切れるほど、二人ともドライではなかった。 「なら、鷺原くん。ホリンくんとソーアくんは華が丘に来て日が浅いから、色々とフォローしてあげてちょうだい」 「はい。分かってます」 もちろん悟司は、メガ・ラニカの二人にフォローが必要だろうと考えての承諾である。いまさら雀原に言われるまでもない。 「それと、華が丘高校では魔法が公に使える分、ケガをすることも多いわ。保健室には養護の近原先生がいらっしゃるけれど、小さな怪我やトラブルはクラスで協力して対応してもらうことになるの」 レイジたち三人を座らせて、雀原はゆっくりとクラス全体を見回した。 「治癒魔法が使える子はいる?」 呼ばれ、彼女の視線の先にいた少女がすっと手を挙げる。 「あの、少しだけなら……」 雀原がその名を確かめれば、ファフセリア・ハニエとある。 「なら、ハニエさん。保健委員をお願いしても構わなくて?」 「えっと、保健委員って……お医者さん、みたいな事をすればいいんですよね?」 静かに頷く雀原に、ファファはぐっと両手を握りしめた。勢いで、両脇に結ばれた長い髪が、ひょこりと跳ねてみせる。 「わかりました。がんばります!」 「ただし、大きな怪我は無理しないこと。皆もハニエさんに協力してあげてね。治癒魔法そのものが使えなくても、助けられる事は多いはずよ?」 考え、工夫できる事も、魔法使いの大切な才能だ。一人で覚えられる魔法の数は知れているが、使い方さえ工夫すれば、その効果は百にも千にもなる。 「それじゃ、委員長。最初の仕事をお願いしていいかしら?」 「へいっ」 「外でオリエンテーションがあるから、クラスを三つの班に分けて、皆の誘導をしてちょうだい。いいわね?」 |