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5.『ソード・バッシュ』

 グルーヴェの野営陣より数キロ。
「やれやれ……ここまで来れば安心、かな」
 わずか数分で数キロの距離を駆け抜けたクラムは、一息ついて自らの力を納めた。
 聖痕の力を極めた『祖霊使い』といえど、その力は無敵でも無限でもない。これだけのスピードを出せば疲れるし、負担も多い。
 羽ばたきをやめ、今までの加速に任せて夜空を静かに滑空……しようとして、
「え!? 嘘っ!」
 上空をパスした巨大な影に思わず息を飲んだ。
 先程の銀翼の獣機だ。クラムはそれが『シスカ』という名前であり、グルーヴェの誇る上級獣機という事は知らなかったが、桁外れな相手という事だけは一瞬で理解していた。
「逃がすか!」
 巨大な腕の動きを体の小ささで回避しておいて、再び『聖痕』の力を展開。瞬時に大加速を叩き出す。
 巻き起こる衝撃波も、10mの鋼鉄兵の前では微風も同然。能力を全開にした体当たりなら何とかなるかもしれないが、魔物程度ならともかく、獣機相手にそんな事をしたらこっちが無事では済まない。
「ち、ちょっと待ってよ! 何でボクがそんな、そりゃ、笑ったのは悪かったけどさぁっ!」
 上空では分が悪い。とにかく低空を。
 幸い、このあたりは『柩』と呼ばれる巨石が数多くあるエリアだ。その間を上手く縫って飛べば、あるいは相手の自爆を狙えるかもしれなかった。
 『柩』の間を全速で飛び、時にはロールをかましつつ、ひたすらにまっすぐに。
「!?」

 そしてそいつは、そこにいた。

 進路の真っ正面に来た『柩』の上。
 クラムが前進から全力上昇に切り替えた『柩』の上に、そいつは立っていた。
「え!?」
 顔は分からない。容姿も闇に紛れ、判別できなかった。
 ただ、長大な刃……おそらくは獣機用の小太刀……を無造作に提げ、こちらを『視て』いるのだけは、分かる。
「ちっ!」
 目の前に『柩』を捕らえ、シェティスも『シスカ』を急上昇。
「キミも逃げた方がいいよっ!」
 横を抜けるクラムに、そいつは無言。
 すれ違い、駆け抜ける。
「くっ……貴様も、仲間がぁ!!」
 全速機動の中、槍を構えたシェティスにも、そいつは無言。
 ただ、掲げた刃に黒い光が生まれ、
 一瞬で渦を成し。
 飛翔。
「な、バガなぁっ!」
 金属塊を両断する衝撃音が、夜の荒野に響き渡る!


 ようやく追い付いたグルーヴェの獣機使い達が見たのは、右腕を失い、地面に叩き付けられている、無惨な指揮官機の姿だった。
「副長! 大丈夫ッスか!」
 慌てて近寄り、機体の上に少女が腰を下ろしているのを見てほっと一息つく。
「すまん。逃げられた」
「まあ、副長が無事ならいいですけど……。それにしても、これ誰にやられたんです?」
 シェティスの獣機操術とシスカの機動性は、グルーヴェ本国でも文句なしのトップクラス。夜中の高速飛行、岩だらけの地形ではあるようだが、それにぶつかって自爆するような腕では決してない。それに、仮にそうなってもシスカ自身が何とかして避けるだろう。
「敵にも祖霊使いの凄腕がいる。一撃だった」
 巨大な刃ですれ違いざまに一刀。片腕を飛ばされてバランスを崩した『シスカ』はそのまま失速し、大地に叩き付けられて……このざまだ。
「……な!」
「団長がいないのも知られていると見るべきだろうな。明日の補給と『シスカ』の修理が終わり次第、スクメギを攻めた方がいいかもしれん」
 両肩を僚機に支えられ、傷だらけの指揮官機は夜の空へゆっくりと飛び立った。



続劇
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