光の中。 ブルーム。 モータル。 アイゼン。 ルナー。 四つのソニアの結界服が、その姿を失っていく。 代わりに少女たちの視線の先へと現れるのは、四連の腕環。 コスモレムリアの至宝にして、彼女たちの持っていた四つの腕環の本来の姿。 ソニアの鈴。 すいと伸ばした少女の腕が、ゆっくりと環の内をくぐり抜け……その先に現れ出でた物を、そっと握りしめる。 それは、剣。 身ほどもある巨大な剣だ。 本来なら数百キロはあろうかという巨大な刃を羽根のように苦もなくかざし。少女はその一言を、口にする。 「…………解放」 切り取られた世界に響き渡るのは、世界を揺らす鈴の音だ。 〜華が丘1987〜 leg.end わたしたちの神話 「はいりちゃん………」 大剣をかざすはいりの身体を包むのは、純白の戦衣とも法衣ともつかぬもの。長い裾をゆらりと揺らし、両手を使った大きな動きで巨大な剣を構えてみせる。 「菫さん。ソニアにあんな形態って……」 解放というキーワード。 精霊武装。 そして、世界を揺らす鈴の音。 いずれもソニアの特徴として挙げられるもの。 だが銀髪の娘の問いに、傍らの黒髪の少女も静かに首を振るだけだ。 「………無いはずよ。そもそも、ソニアに五つ目の姿なんて……」 有機を治める、赤いブルーム。 無機を操る、浅黄のアイゼン。 精神を司る、青きモータル。 そして、時間を統べる紫のルナー。 この四つの形態が、四連の鈴が生み出すことの出来る全ての力だった……はず。 しかし菫の目の前にいるのは……今まで一度たりとも見たことのない、純白のソニア。 「はいり、大丈夫なの!?」 親友の問いに、白き衣をまとったはいりは無言で頷いてみせるだけだ。 「来たよ!」 だが、もう一人の親友の声に、少女たちの彼方にある姿へと強い視線を叩き付ける。 「蚩尤……!」 蚩尤。 四メートルの大太刀を構える、黒きコートの男。 その背後に黒衣の女性の幻を背負う、世界を滅ぼす神の姿。 そいつが、ゆっくりと大太刀を振り上げて……。 「みんな、隠れ…………」 菫の言葉に一同は応じようとするものの、そこで動きを止めてしまう。 蚩尤の大太刀は、様子見に振っただけで数キロ先の山まで両断する威力を誇る。それが本来の斬撃となれば……一体どれだけの破壊力を持つのか、想像の範囲を超えていた。 さらに言えば、ソニアの加護を失った今の少女たちは、限りなく無力に近い。絶対的な防御を誇るソニアの結界服があればともかく、今この状態で蚩尤の斬撃がかすりでもすれば…………。 「とにかく、逃げ………っ!」 蚩尤の振り下ろす刃の動きは、驚くほどにゆっくりと。 死の間際、世界の全てが緩慢に見えるほどの集中を生み出す一瞬があるという。0.1秒のそれが、数十秒にも見える一瞬があるのだと。 その一瞬を、皆がこれかと認識する中で。 「…………」 た、と響くのは、軽やかなステップの音。 振り下ろされ、大太刀より生み出された破壊の渦と、少女たちの間に。 進むことも、駆け出すことすらも……純白の長いスカートを揺らすことさえもなく。 ただ、その一瞬からそこへと現れたのだ。 「………はい………り……?」 白き衣をまとう少女は親友に向かってほんの一瞬、優しく微笑んで。 迫り来る破壊の渦へと叩き付けるのは、その身ほどもある巨大な剣だ。 巻き起こる炸裂は、周囲の石畳を端から捲り上げ、わずかに残っていた手水舎や塔の残骸を軒並み吹き飛ばすに十分なものだった。 「はいり!」 その暴風にも似た衝撃波を身を屈めることで必死に耐えつつ、少女が叫ぶのは、彼女たちの盾となった親友の名だ。 「葵ちゃん!」 「だって、はいりが……はいりがっ!」 ほんのひと振りで、数キロの彼方まで破壊を撒き散らすような一撃である。 いくらソニアの絶対防御があり、葵たちを守るためとはいえ……そんな破壊の極みを正面から受け止めて、無事で済むはずがない。 「…………落ち着きなさいよ」 「え………」 破壊の中心。 いまだ砂煙の晴れ切らぬそこに響くのは、ぶぅん、という大きな物体が振り抜かれる音と。 天と地。 黒の巨竜と三首の獣。 無数にひしめく蚩尤の眷属が、全て一瞬で両断される、続けざまの破壊の音だ。 「はい……り……?」 大きな振り抜きの起こした風の中、そこに姿を見せるのは純白の衣をまとうはいりの姿。 「大丈夫? みんな!」 純白の衣には傷一つ無く、大剣を構えたまま叫ぶ少女に……。 「ばかっ!」 叩き付けられたのは、親友の拳だった。 空中に写し出されるのは、葵に殴られたはいりの情けない泣き顔だ。 戦場から少し離れた石段の下、空中に投影されたそれを見守るのは、三人……いや、二人と一匹の姿であった。 「あれが……マイス。………はいりの力か」 ブルーム、モータル、アイゼン、ルナー。 ソニアと共に戦ってきた結界獣も、ソニアの姿とされる四つの形態までは見たことがある。 けれどマイスと銘打たれた白い姿は、菫と共に戦っていた頃も、ローリを導いていた頃も、一度も目にした覚えのないものだ。 「理論上、現れることは予見されてたけど……まさか、本当に存在するなんて思わなかったわ」 空中に浮かぶ画像を眺めつつ、長い髪の美女もそう呟くしかない。 「何だそりゃ」 「だって、人工精霊を契約ナシで命令できる子がいるなんて……思わないでしょ? 普通」 ソニアの人工精霊は、己の気に入った相手としか『契約』を結ぶことはなく、また契約を済ませていない相手に力を貸すこともありえない。 けれど、はいりは違う。 契約することなく、精霊に『命令』することで、人工精霊達の力を引きずり出してしまうのだ。 「だからソニアを起動出来はしても、精霊武装までは引き出せなかったのか……」 それが誇り高き人工精霊達の、わずかに出来る抵抗だったのだろう。 「多分ね。でも……」 正当な契約を結んだ四人のソニアが、彼女へ力を与えたいと願ったとき。 人工精霊達は、本当の意味ではいりへと力を貸した。 有機。 無機。 精神。 時間。 この世界を構成する、四つに分かたれた力の全てを。 人工精霊マイスの意思として。 「で、マイスの力ってのは何なんだ、ブロッサム。どう考えても、あの攻撃って当たってないだろ」 一度の発動で天空を灼き尽くす、ブルームソニアの雷の魔法は分かる。地上の数百の獣を一度に塵へと還す、アイゼンソニアの誘導弾のスコールも。 だがはいりだけは、地上で大剣を大振りしただけで、遠距離にいる無数の魔物を同時に屠っている。ブルームの花弁のような媒介も、ルナーの時間加速のような高速移動も使っている様子はないのに……。 「リアルタイムで歴史を書き換えてるのよ。あの攻撃が当たったという歴史に、ね」 間の経過は一切挟まない。 ただ唐突に『結果』のみを発現させる。 それが、時と、この世を構成する命あるものと命を持たないもの、そしてこの世ならぬ存在を統べる……世界の全てを司るという事。 「……デタラメだな」 そんなあまりに絶対的すぎる力を防ぐため、ソニアの鈴は四つの事象に分かたれていたのだ。 けれど、その分かたれた力は今ひとつに戻ってしまった。 神話の名を持つ人工精霊と、その資格者の下に。 「で、どこまで出来るんだ? その力は」 もっとも、葵に殴られて説教されている様は、全知全能にはほど遠い姿だったけれど。 「………何でもよ。あの子がそう望むなら、ね」 ブロッサムは頬杖を突いたいつもの様子のまま、ほぅとため息を吐くのだった。 空に姿を見せるのは、黒い翼の巨大竜。 森からその身を覗かせるのは、三首の獣。 既にはいりが一掃した痕跡などどこにもない。先刻以上の大兵力が、着々と総攻撃の準備を整えつつあった。 「そっか……あいつ、ローリちゃんのパパとママなんだ……」 そんなわずかな攻撃の隙にはいりが確かめたのは、彼方に立つ黒衣の怪人のこと。 「そんな事はもう良いのよ。それより……」 重要なのは、残った時間で蚩尤との決着をつける事。 はいりの体力もあるし、なによりこの切り取られた世界自体、それほど長くは保たないはずだ。 この世界が失われれば、砕かれた世界以外は全て地上と重なり合う。それは即ち、蚩尤が率いる異形の大群が、華が丘にそのまま降臨する事を示していた。 「よくないよ!」 だが、ローリの言葉をはいりはひと言で否定。 「せっかくリタリナさんだって、元に戻ったのに!」 「………姉さんが?」 姉も母と同じく、蚩尤の眷属として風を操るキュウキの力を得ていたはずだ。 この決戦の場にいない事は、確かに疑問に思ってはいたが……。 「うん。ここに連れてきてくれたのも、リタリナさんなの」 「……なら方針は決まりね。封印系は、モータルの魔術書に記述があるはずなんだけど……」 無言ながらもわずかに口元を歪ませ、小さな喜の感情を示しているローリに柔らかい笑みを浮かべつつ。菫は白いソニアに視線を寄越す。 白いソニアの事は分からないが、残る四つの力であればそのほとんどを把握済だ。 「えっと、モータルの魔法は、使えない……みたい?」 しかも、返ってきたのは疑問形のことば。 どうやらはいり自身が自らの力を把握し切れてはいないらしい。 「役に立たないわね……。けど、鈴はないし」 そう。 彼女たちに力を与えるソニアの鈴は、今ははいりの腕にある。唯一無二の存在であるそれが彼女の元にある以上、葵たちがソニアの力を発動させる事は出来ない。 「あ。そっちなら大丈夫」 「大丈夫って………?」 鈴を外すことと、変身の解除はほぼ同義。 蚩尤と唯一戦える白いソニアの変身を解けば、四人は確かに変身できるだろうが……それこそ蚩尤には勝てなくなる。 だが、言いかけた四人の手元に現れたのは……。 「……………どうやったの」 その言葉は、今度は柚子ではなく菫から。 彼女の手元にあるのは、紫の宝珠を埋め込まれた細い一連の腕環……ソニアの鈴だ。 見れば、周りの三人のもとにも、彼女たちに対応した腕環が現れている。 「複製したとでも……言うの?」 問いかけたはいりは、いまだ白い衣と精霊武装を携えたまま。そして腕には、四連の腕環が静かな輝きを湛えている。 「よくわかんないけど、出来るみたい」 「よくわかんないって……」 ソニアの鈴は唯一無二。 それを複製・量産する事は、現在のコスモレムリアの超絶科学にすら不可能なことだと聞かされていたのだが……。 「とにかく、戦えるなら戦えるわよ!」 青い腕環を右腕に填め、葵が叫ぶ。 「菫さん、ローリちゃん……」 「言われるまでもないわ。ローリの両親を助けて、みんなで帰らないとね」 柚子の言葉に、菫とローリも既に腕環を填めた後。 「なら……行くわよ! 皆!」 葵の叫びと同時、四人の少女は揃って右手を振り下ろす。 凜と響き渡るのは、世界を揺らす鈴の音だ。 空を覆うのは黒い翼の竜の群れ。 「ブロッサムさん。わたし達に……何か出来る事って、ないんでしょうか?」 そいつらが目指す一点……華が丘八幡宮の頂上を見上げ、ボロボロのドレスの少女はぽつりと呟いた。 そこでは今、妹とその友達が戦っているのだ。 「特にはないわねぇ。その人工精霊……キュウキだっけ? すぐに修復するというのは難しいでしょうし」 傍らで呟くのは、長いドレスの女。 石畳に沿って置かれた石灯籠に腰掛けて、やはり少女たちの戦いを眺めているだけだ。 「そうですか……」 胸元にある砕けたペンダントに触れ、リタリナは小さくため息を一つ。 彼女のまとっていた戦衣は、本来なら頂上で戦うソニア達と互角の力を持つ。それがあれば、激戦を繰り広げる少女たちの助けともなれるのだろうが……。 ただ、その力を失う代わりに今の彼女があるのだから、両方を求めるのは無茶というものだろう。 「……それよりニャウ。あなた大丈夫なの?」 むしろブロッサムが気にしたのは、少女たちの戦いではなく、彼女たちの傍らに立つ猫に似た獣のほう。 「大丈夫じゃないが、何とかするしかないだろう」 石畳の上、四本の足を踏みしめる小さな姿は、時折ゆらりと体勢を崩しかける。 この切り取られた世界を保ち、リタリナやブロッサムたちを上空を舞う魔物に気取られぬよう守っているのは、全て彼の力に因るものだ。 即ち、彼の体力の限界が……頂上で戦う少女たちの、戦闘時間の限界に等しい。 「あいつらも頑張ってるんだ。もう一息くらい、頑張ってみせるさ」 爆光の咲く頂上を見上げ、結界獣も小さく、そう呟くのだ。 「はああああああっ!」 大太刀の軌跡から巻き起こるのは、ただひたすらに純粋な破壊の力。触れれば砕ける衝撃波を無害な風へと書き換える事で、はいりはその攻撃をようやくいなす。 歴史を書き換える桁外れの力も、はいりのイメージが追いつかなければ何の意味も持たない。そして……。 「っ!」 蚩尤の背後に絡みつくように抱き合う黒い女が解き放つのは、近距離からの雷撃だ。流石にそれの無効化までは反応が追いつかず、はいりの小さな体は雷撃に圧されるままに吹き飛ばされる。 バランスを整え、大剣を掴み直せば、眼前に落ちてくるのは四メートルの鋼の刃。 本来ならば間に合わぬそれは『受け止められた』ことにするものの、続く蹴打と雷撃までは間に合わない。 「………っ!」 今の所、じわりとした痛みこそあるが、その程度。 無論、マイスの防御があってこその結果だ。他の四人が先ほどの斬撃や雷撃を食らえば、無事では……。 そう思った瞬間、響き渡るのは四つの悲鳴。 「みんな……っ!」 次弾の雷撃が狙ったのは目の前のはいりではなく、蚩尤の封印の準備をしていた葵と柚に向けて。 そしてその二人を援護し、迫る竜と獣を迎撃していたローリと菫に向けて。 「この…………っ!」 かっと頭に血が上り、思わず大剣を振りかざしたところで…………。 ぎり、と柄を握りしめ、その斬撃で相手を両断しようとする意思をギリギリのところで押さえ込む。 相手は蚩尤ではない。 ローリの父と、母なのだ。 断ち切るイメージは簡単だが、それが出来ないからこそ、はいりはこうして戦っているのだ。 「みんな………頑張って!」 「当たり前……でしょ……っ!」 叫びに答えるその声は、剣戟に紛れて聞こえはしないだろう。けれど葵は、はいりの声にそれでも叫び返し、無理矢理にその身を引き起こす。 魔術書が壊れている様子はない。意識を集中させれば、続く呪文が浮かんでくる。 「柚、行ける?」 「うん!」 痺れの抜けない指をしっかりと繋ぎ合い、浅黄の戦衣を引き起こす。 今の状態で普通に封印の魔法を完成させれば、蚩尤だけではなくローリの両親もろとも封印してしまう。そんな事態を防ぐため、普段なら葵が一括して行う術式の制御を、柚子に任せているのだ。 「柚……」 繋がった手からは、優しい柚子の思考に乗せて術式の制御情報が伝わってくる。そして耳に届くはいりの剣戟の音が、葵に呪文を紡ぐ力を与えてくれる。 「菫さん、はいりの所に行って」 その傍らでやはり立ち上がったのは、長杖を構える赤い戦衣の少女と、銃剣を手にした黒髪の娘。 はいりが押えきれているのは、蚩尤の斬撃だけ。同時に雷撃を放たれれば、こちらに対して防ぐ術はない。 そしてはいりの動きの隙を突いて蚩尤を攻められるのは、時の狭間から一撃を加えられる菫を置いて他にない。 「………いいのね?」 しかしそれは、魔法の準備で動けない葵たちの守りが手薄になる事も示している。 周囲の魔物は倒す端から新たに生まれ、その数はいくらも減じていないのだ。 「いいわよね」 だが、呟くローリに、問われた相手は不敵な笑み。 「……ええ。もうバカ猫も限界でしょ? ここで終わらせなきゃ、どっちにしてもおしまいよ」 「来たよ!」 柚の言葉に上方を向けば、そこからダイブを仕掛けてくるのは黒い翼の巨竜の群れだ。開いた顎は少女たちより遙かに大きく、黒光りする牙の列はソニアの結界装甲でさえ容易く引き裂けるように見える。 「なら、あの竜だけは……」 銃剣を構え、ルナーの精霊武装……時を圧縮する力を解放しようとした刹那。 「………何とかするから、行って!」 それより早く巨竜の前に現れるのは、紅の花弁の嵐。 数億、数兆の小さな刃が迫る巨竜を触れる端から引き裂いて、数億、数兆の欠片へと変えていく。 「だから、あなた達も何とかしなさいよ、葵! 柚!」 三人になった戦場。起動させた膨大な力に肩で息をしながら、銀髪の娘は守るべき二人の少女にそう言い放つ。 「…………誰に言ってるのよ」 だが、返ってきたのは不敵な言葉。 「準備出来たわよ! みんな!」 黒いドレスの女がかざした手を弾いたのは、はいりの刃ではない。 「菫さん!」 数百に及ぶ銃弾の連射と、それに続く峰での打ち上げだ。 「ええ!」 超加速した世界から戻った瞬間、耳に届くのは葵の声と、それに応じるはいりの叫び。 相手もこちらの策略に気付いたのだろう。 呪文の詠唱を始めたカオスの動きを押えるべく、菫は再び時間圧縮の世界に飛び込んでいく。こちらの作戦は分かるから、はいりの動きに合わせさえすれば、声は聞こえなくても問題ない。 四メートルのかざされた刃を、はいりの大剣が打ち払い。 「今っ!」 がら空きになった蚩尤の胴に穿たれるのは、発動した葵の魔術陣。柚のサポートによってリアルタイムで変化を続けるその魔術は、蚩尤の防御の力ごとその動きを呪縛する。 神に等しき魔神の手から四メートルの大太刀がこぼれ落ち、男のコートと女のドレスが、ゆっくりと崩れだしていく。 その崩れた闇が、再びその形を成し始め……。 「今だよ、ローリちゃん!」 ひとの姿を取り戻しつつある男と女に飛びついたのは、銀の髪をした赤い戦衣の娘。その衝撃で、崩れかけていたコートとドレスはそのまま一気に四散する。 「パパ………ママ……………っ!」 「はいり!」 飛び散った闇が取るのは、三対の腕を持つ異形のシルエット。額に浮かぶ黄金の円盤の下、殺意を秘めた四つの瞳が強く輝いている。 そいつは周囲の竜や獣を取り込み、山さえ覆う巨躯となって少女たちの前に立ち上がり。 「任せて!」 相手は人にあらざる力を持つ、破壊の神。 かつて古代の神とも戦ったと言われる、滅びの化身。 全ての武器を生み出したという、戦の神。 けれど、それだけだ。 怯える理由など、どこにもない。 剣を向けられぬ理由も、ありはしない。 そして神に等しき力なら、はいりでさえも持っている。 「でええええええええええええええええええいっ!」 歴史を書き換える力を持った斬撃が、巨大な影を一刀のもとに叩き斬り。 「柚!」 柚の情報を元に葵が発動させた結界が、山全体を覆い尽くす。 「こんな……に……っ!?」 だが、相手は神とも呼ばれた一柱。封印を拒絶する意思は、ソニアの力を弾こうと魔術を通じて少女たちに牙を剥く。 そんな弾かれ掛けた葵と柚の手に重なるのは、ローリの手。 菫の手。 そして、はいりの手。 「葵ちゃん!」 「わかった!」 歴史さえ書き換えるその力が、世界に滅びを撒き散らす戦の神を、再び一枚の円盤の中へと押し込んで…………。 |