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9.時を越える約束

 それから、数日の後。
「ペトラ。色々と世話になったな」
 ペトラがアレク達を伴って訪れたのは、黒大理に覆われた世界……ネクロポリスの一角だった。
「こちらこそ、色々とありがとうございました。父様」
 既にソフィア達はネクロポリスのコールドスリープに入り、十三年後への旅を始めている。ペトラが眠りにつく事になった一角も十三年後まで封印され、誰も近付くことが出来なくなる。
「……なら、しばらくはお別れか」
「いえ。父様達には、この時代のペトラがいるでしょう?」
 そっと差し出された父の手を握り返しながら、ペトラは穏やかに微笑んでみせる。
 この世界に、ペトラ・永代は一人で良い。
 そしてそれは、未来から来た彼ではなく、今もイズミルにいる幼いペトラであるべきだ。
「……ペトラ」
 そんな旅立ちの時を控えても彼に寄り添うように立っているのは、白銀の髪の少女だった。
 彼とアンピトリオンが旅立ちの支度を終えるまでの数日間、二人は沢山の事を話していた。
 大半はセノーテの辿った数奇な運命についての話だったが、その時間ですら、彼女の全てを知るには足りもしない。
「セノーテ。話の続きは……」
 少し寂しそうな少年の言葉に、少女は穏やかに首を振る。
「次に会った時に聞いてもらう」
 ペトラが眠りについた後、セノーテはイズミルを離れ、大陸中を旅して回るのだと聞いていた。
 今の彼女は何も出来ない無力な王ではない。
 神でも王でもなくなったけれど、どこにでも行けるし、何でも出来るのだ。
「十三年だよ。……長くなるけど、いい?」
「平気。待つのは、慣れてるから」
 世界を見て回る事もあるし、未来のペトラを過去へと誘う術も身に付けておかなければならない。
 したい事も、しなければならない事も山のようにある。
「ペトラが起きたら、その間のことも話したい」
 黒い牢獄に囚われ、先の見えない何百年もの空虚な時間に比べれば、それこそ瞬きするような時間となるはずだった。
「そっか。それじゃ、セノーテ。……またね」
 差し出した小指に、小指が絡む。
「……うん。またね」

 そしてペトラは、再び十三年の時を越える。


続劇

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