22.世界の悲劇を止めるために 壇上で語られるのは、キングアーツ様式のドレスを纏うソフィアの高らかな宣言だ。 自らの上官の晴れ舞台を横目に、セタが耳を傾けるのはリーティの話である。 「……敵の陽動?」 「うん。アレク達はそう見てる。本命はこっちだろうって」 それを聞いているのはセタだけではない。セタの隣に並ぶ、プレセアや奉達も同じだ。 「……ロッセなら間違いないだろうな。セタ、悪いが」 本来はソフィアの副官であるセタはここにいるべきだが、彼のアームコートの特性を考えれば、周囲の警戒に出た方がいいだろう。 「MK-IIの準備は?」 環の言葉に小さく頷き、セタは壇上で声を張るソフィアの姿を静かに瞳に焼き付ける。 「もう暖気を始めてる。着いたらすぐに出られるって」 「分かったよ。……ヴァルさん、奉君。こちらは任せるよ」 ここにいる環やプレセア……そして、壇上のソフィアたち三人。 今日結ばれる和平は、その誰が欠けても成り立たないはずだ。 「言われるまでもない」 頼もしいその言葉を受けて、セタはリーティと共に音もなくその場を後にするのだった。 神揚側の控えの間に残されたのは、三人。 半蔵とシャトワール、そしてジュリアの三人だ。 「でも、シャトワールが無事で本当に良かった」 「たくさん心配を掛けてしまったみたいですね」 「ええ。後でククロにも会ってあげて。どうせ今日も、研究室に籠もってるんだろうけど」 そんな彼でも、シャトワールの事は彼なりに心配していた。彼のやり方に対してぶつかった事もあったけれど、今はそれも彼なりの思いの継ぎ方なのだと理解している。 いずれにしても、義体に問題がないか検査しろと言えば、喜んで作業に時間を割いてくれるだろう。 「彼らしいです」 「……良い顔になったね?」 「変わっていませんよ。昔と」 ぽつりと呟くジュリアに、シャトワールは首を傾げてみせる。 シャトワールの全身は、幼い頃に受けた火傷でその大半が失われていた。身体や顔の構造そのものは義体化手術で取り戻す事が出来たが、内に宿る感情や表情の全てが元通りになったわけではない。 「ううん。何て言うのかな、前は本当に無表情だったけど……」 けれど、その言葉に……ジュリアは小さく首を振る。 「今は何だか、やりたい事が出来たみたいに見える」 「それは拙者も思うでござる」 人の表情は、筋肉だけで表現されるものではない。 周囲の空気、感情、仕草……その全てが相まって、一つの表情として作られる。それを素顔の半蔵はあえて削ぎ落とし、シャトワールは幼い頃に自らの意思とは関係なく失った。 「何て言うか……楽しそう」 だが、それら今までのシャトワールには欠落していたものが、今はいくらか補われ、表情という形で現されているように見えたのだ。 「……それは、当たっているかもしれません。わたしにも、やりたい事が出来ましたから」 「そっか……!」 シャトワールの言葉に、ジュリアが浮かべるのは素直な笑顔。 「ええ」 彼女の笑顔はシャトワールにとっても、二人を見つめる半蔵にとっても、あまりに眩しすぎるもの。 そして、その笑顔を染めるのは……。 「この世界で起きる悲劇を、止めるという……ね」 彼方で起こった爆発の、赤だった。 |