4.新しいプロローグ
それから、数日が過ぎた。
「じゃ、行くわ」
カウンターに立つのは、黒衣のルードと白いマントを羽織った小柄なルードの二人組。
フィーヱと、シヲである。
「気をつけてくださいね、シヲ」
目的地であるザルツまでは、冒険者にとっては大した道のりではないが……いまだ本調子でないシヲにとっては厳しい道のりとなるだろう。
「俺の心配は無いのかよ、シノ」
「フィーヱは心配するようなことしないでしょう」
「まあ、そうだけど」
慰めたいと思ったのか。そっと身を寄せてきた白いマントの娘を、黒衣のルードは優しく抱き寄せてみせる。
「それじゃ、みんなにもよろしくな」
「言えば良いのに」
旅立ちの日を伝えたのは、『月の大樹』のスタッフを除けば、同行するコウとルービィだけ。見知った顔はまだ幾人か『月の大樹』に残っていたが、彼らには結局伝えずじまいだ。
「こういうの苦手なんだよ。そういえば、リントは?」
「お祭りの日から、見ませんの。捜索依頼も出しているのですけれど……」
忍の視線の先にあるのは、依頼の掲示板。
その隅には、「ねこさん、さがしてます」という小さな依頼が張り出されている。
「料金は前金でもらってるから、出て行くぶんには構わないのだけれど……」
もともとふらりとガディアに姿を見せたぬこたまだ。去る時も、ふらりと姿を消すというのも無い話ではないが……。
「……あら?」
「どうした」
「今あそこで、ねこさんが笑った気がしたんですの」
店の隅。
いつも彼がいたカウンターの席に、見慣れたぬこたまの笑顔があった気がしたのだ。
「気のせいだろ」
けれど、そこには誰も居ない。
「じゃ、行くよ。工連の馬車も待たせてあるし」
あまり別れに時間を掛けては、護衛のコウやルービィも待ちくたびれてしまうだろう。
「ええ。お二人とも、気をつけて下さいませ」
忍達に背中越しに軽く手を振り、この街に一人でやってきた黒衣のルードは、二人となって街を出て行くのだった。
○
「いらっしゃい」
幸せそうに肩を寄せ合って歩く、十五センチの小さな娘達と入れ替わりに。
『あなた』が月の大樹を訪れたのは、ちょうどそんなタイミングだった。
「………あら、いらっしゃい」
カウンターの少女に声を掛けられたあなたは……一体、何者?
終劇 |