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廃坑探索編
 4.Fire Bomber!


 太陽は既に中天を過ぎ、西の空に差し掛かろうとしている。
「みんなおやつ食べないの? 全部食べちゃうわよー」
 晴れ渡る空の下。作業の合間にセリカが作った焼き菓子を前にして声を上げるのは、ミスティである。
 翌日も調査は順調に進み、そのほとんどの行程を終えようとしていた。尤も爆弾での発破が必要な場面はどこにもなく、ミスティとしては不本意極まりなかったのだが。
「……なにやってんの?」
 誰も来ない状況に、仕方なく焼き菓子の入ったバスケットを抱え、頭を寄せ合って何やら話し込んでいる一同の所へ歩いて行く。
「これ見て、ミスティ」
「なになに……」
 完成した地図は三枚。セリカにその一枚目を指差され、その一点を確かめる。
 ヒューゴの指揮の下、カイルが記した坑道の地図は、大きく分けて三層の構造を持っていた。
 残った銅の鉱脈を探すため、乱雑に掘り進められた最深部の第三層。
 大きな鉱脈を見つけたのだろう。割合に整っている、第二層。
 そして、魔法使いの掘削も加わり、最も整然と掘り進められている、入ってすぐの第一層だ。
「第一層の、ここです」
 言われれば、長い坑道の突き当たり、不自然にぽっかりと掘られていない空間がある。
「岩盤が固かった所だっけ?」
「そそ。ただこの程度の硬さなら、他の所は魔法使いがちゃんと掘ってるんだよな」
 魔法使いがいなくなったらしい第二層や第三層なら分かる。だが第一層を掘っていた頃は魔法使いもいたようだし、この一点だけ掘られていない理由が分からない。
「隠し通路じゃないの?」
 確か、セリカやフィーヱが何カ所か見つけていたはずだ。もっとも、どれも地崩れしただけのハズレで、期待していた宝物など見つからなかったのだが。
「それもなかったんですよね。で、ここを確認すべきかどうか話してたんですが……どうしましょう、イーディスさん」
 現場での判断を下すのはヒューゴたち冒険者だが、大元の決断は依頼主であるイーディスの役割だ。
 指示を仰ぐべき依頼主がいなければ臨機応変に判断する所だが、幸か不幸か依頼主は目の前にいる。
「そうですね。後で何か起きても困りますし、安全かどうか確実に調べてください」
 大方針は決まった。ならば後は、その方針をもとに現場が動くだけだ。
 もちろんそこでの判断は、ヒューゴたち冒険者の役割となる。
「分かりました。何か大きなトラップが仕掛けられている可能性もありますし、慎重にいきましょう」
「鉱山にトラップ? 今まで一個もなかっただろ」
 坑内に危険な箇所は幾つかあったが、どれも落盤やガスなど、天然の物ばかりだ。人工的なトラップは、今のところ一箇所も見つかっていない。
「皆さん。この地図を見て、何となく気付きませんか?」
 その言葉にヒューゴを除く一同は、第一層の地図をもう一度じっくりと眺めてみる。
「……神殿か、要塞?」
 直線の坑道に、周囲に広がった支洞。計画的に掘り進められたそれは、よく見れば鉱物以外の何かが目的だったようにも思えてくる。
「この鉱山自体、もともと別の施設として作られた物を追加で掘り進めて、結果的に鉱山になったんじゃないでしょうか?」
「じゃあ、この突き当たりにある謎の空間は……」
 神殿だとすれば、神を祭る場所。
 要塞だとすれば、恐らくは謁見の間。
 いずれにせよ、重要な『何か』があるべき場所だ。
「この下って、確か例のレガシィの発掘跡だよな」
 十分に縮尺を考えて記された地図を重ね合わせれば、その二つは極めて近い所で重なり合う。
「そういうことです」
 そこで、誰かが気が付いた。
「…………あれ? ミスティは?」
 会議の終盤で顔を出し、話を聞いていたはずの女性が、既に姿を消していることに。
「さっきまでいただろ?」
 一同の背後に転がっているのは、空になったバスケットだ。それはまあいい。
 良くないのは……馬車の上だ。
「おい! 爆弾がない!」
「は!?」
 荷台に大量に積まれていたはずの爆弾の樽が、一つ残らず消えているではないか。
「てか、あんな大きな爆弾、どうやって運んだんだよミスティのや……」
 刹那。
 鉱山の口から勢いよく吹き出したのは。
 凄まじいまでの爆発音と、圧倒的な爆風だ。


 鉱山の口から溢れ出すのは、もうもうと立ち籠める砂煙。
「ただいまー」
 やがてその奧から平然と姿を見せたのは、埃一つ付いていない道具屋の主だった。
「ちょっと、ミスティ。大丈夫なの?」
「ええ」
 狭い空間で、馬車一杯の爆弾を同時に炸裂させたのだ。破壊力は坑道を駆け抜け、辺り一面を粉砕させるに足る物のはずだが……。
 その爆心地にいたはずのミスティは、全くの無傷。
 それが彼女のやせ我慢でないのは、平然と呟くその表情からも明らかだ。
「良かったですっていうか、鉱山は! 中は大丈夫なんですかっ! まさかさっきの爆発で、崩れまくったりしてませんよねっ!?」
 だが、そんなミスティに飛びかからんばかりなのはこの調査の依頼人だ。赤いを通り越して蒼白な表情で、この大発破の張本人に問いかける。
「だから大丈夫だってば。そんな事より例の場所、面白い物が見つかったわよ?」
 イーディスの言葉にごくあっさりと答えておいて、彼女は一同を坑内へと促すのだった。


続劇

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