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「わ、お帰りなさい! 依頼主の先生から連絡はもらってるわよ。大活躍だったんだって?」
 カナンの言葉に、あなたは困ったような苦笑いを浮かべるしかない。
 大活躍と言われても、いつも通りの働きをしただけだ。確かに長期に渡る依頼だったから、お世辞にも楽とは言えなかったけれど。
「そんな事はいい? ……それより………?」
 その辺りの苦労話を大冒険に仕立て上げるのは吟遊詩人にでも任せておく事にして……あなたが少女に聞き返したのは、先程肩を落として出て行った青年冒険者の事だ。
 彼もまた、この店を拠点に活動している常連冒険者の一人のはず。
 冒険者に対しては寛容な……ただし酔客に対しては容赦がない……この店で、彼のように肩を落として出て行く者は滅多にいないはずだが……。
「北に行くんだって。知らない? 平野の国にあるエンドロアって街で、古い遺跡が見つかったのよ」
 そういえば帰還の途中で立ち寄った街で、そんな噂を聞いた気もする。その時は、そんな物もあるのかと軽く流した覚えがあるが……。
「まさかあなたも行くなんて……言わないわよね?」
 やや恨みがましげなその問いに、あなたは静かに首を振ってみせる。
 大活躍かどうかはともかくとして、今回の調査は厳しい旅だった。しかしその甲斐あって懐は暖かいし、しばらくはこの近辺で小銭でも稼ぎながらゆっくりしたい。
「助かったわ。で、そんなあなたに…………お手軽な仕事があるんだけど」
 この街に拠点を定めてもうかなりになる。あなたは壁に貼られたメモを一瞥し……内容はとうに分かっていたから、手に取る必要もなかった……軽く肩をすくめてみせる。
 今年は遠征のおかげで顔を出さずに済むと思っていたが、どうやらそれも期待はずれに終わるらしい。
「漁師ギルドからも依頼があったんだけど……今のところ、十匹くらい見つかってるんだって」
 けれど告げられたその数に、さしものあなたも軽く息を呑んでみせる。
 いつもなら四〜五匹、多くても八匹を越えた事は無かったはずだが……。見つかっただけでも十匹なら、本番ではもっと多いだろう。
 せっかく無事に帰って来られたというのに、何かの凶兆だろうか。
「………ツナミマネキ」
 遠浅の覇者と称される恐るべき甲殻類の名を、あなたはぽつりと呟いてみせるのだった。


続劇

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