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10.逆紅のヴァーミリオン

 白い炸裂を目にしたシーグルーネは、その動きを一瞬だけ止めていた。
「あの力……超獣機神……!?」
「シグ!」
 ぼそりと呟いた言葉に眉をひそめ、ベネは慌てて叫ぶ。
「あ、ごめん、ベネ」
(まさか……ね)
 一瞬だけ感じた神超える力を気のせいだと思い直し、意識を目の前の敵に集中させる。
「頼むよ。バカなのはこのさい仕方ないけど、戦場ではマシにやっとくれ!」
 数えるのもバカバカしくなった赤い獣機の何体目かを切り伏せた所に、見慣れた白い獣機が姿を見せた。
「ロゥ・スピアードか!」
 どうやら、彼が突破口を開いてくれたらしい。後ろには増援の獣機隊の姿も見える。
「遅れてすまん! こっちはこのまま城に入る!」
 ロゥが駆け抜ける刹那、翼を広げる黒い獣機から声が飛ぶ。
「ロゥ、ソカロという風のティア・ハーツが地下への入口を知っている。何とか合流しろ!」
「クロウザさん、助かる!」
 増援部隊だけを残し、先陣を切った三騎の獣機は、そのまま城門に向かって飛翔する。
「あれ、マチタタも一緒かい」
 そのしんがり。柔らかく飛翔する獣機の手のひらに、見慣れたネコ娘の姿があった。
「あたしがここで暴れると邪魔なんだってー。じゃあねー」
(ああ、まあ、確かにねぇ……)
 アークウィパス裏門や先日の泉討伐の周りを省みない大活躍を思い出し、ベネは何となくそう呟いてみる。
「ベネ!」
 我に返ったのは、シグの声でだった。
「あ、ああ……」
「たのむよ。ばかなのはこのさいし、し、したかないけど、せんじょーではましにやっとくれ!」
 本人としてはベネを真似たつもりなのだろうが、思い切り棒読みだ。
 しかも噛んでいた。
「後で殺す!」
「やーん、じょうだんなのにー」
 シグの泣き言を放置し、ベネは操縦桿を握り直す。周囲の味方はまだ健在。十分、戦える。
「敵は総崩れだ! 一気に押し込むよっ!」
 増援を加えたベネンチーナ達は、再び戦闘を開始した。


 グルーヴェ軍右翼が戦況を立て直しつつある頃。
 最大の激戦地であったグルーヴェ左翼も、状況を立て直しつつあった。
「やるな……。その力、この世界のために使ってみんか?」
 赤い巨大兵士を拳一つでなぎ倒す親父と。
「興味はないな」
 赤い巨大兵士を剣一本で打ち倒す巨漢の、たった二人の活躍によって。
「赤兎殿。次は北に移動です」
 この戦場ではシェティスですら、味方のフォローと戦況の案内をする役でしかない。
「了解だ」
 膠着状態に陥っている場所に忽然と現れ、そこにいる赤の獣機を完膚無きまで叩きのめす。味方が果たすべき事は、ひたすらに耐え、戦況を維持するだけだ。
 男達の人外の活躍は味方を士気を取り戻し、崩れかけていた戦況を完全に取り戻している。
「世界の平和を脅かす力を狩る仕事やで?」
「……何?」
 新たな戦場を求めて走る足を止めることなく、赤い仮面の男は男の言葉に問い返す。
「自分、満足しとらんやろ? こいつら相手でも」
 ワシと同じや。
 そう、男は嗤う。
「……考えておこう」
 無愛想に答える男に苦笑を一つ浮かべ、虎族の中年男は「それにしても」と表情を戻す。
「超獣機神の片鱗まで見せるか……。この時代の奴らは、やっぱ侮れんなぁ」


 革命派の増援で、軍部派の勢いは盛り返しつつあった。
 コルベットの本陣。指揮卓の中央に置かれた水晶盤には、全体の戦況が投影されている。
「左翼・右翼は半壊状態、中央も……」
 百騎近くを投入したヴァーミリオンも、既に半数近くの反応がない。
「膠着状態、か」
 だが、本陣にいる者達の表情には一点の曇りもなかった。焦るどころか、この期に及んで余裕の表情さえ浮かんでいる。
「「戦況を変えねばなりません」」
 指揮卓の中央。双子の美女が、同じ表情、同じ動作で、指揮を下す。
 負けるよりは、勝った方が良い。
 例え、戯れの戦だとしても。
「「フォルミカ。頼みましたよ」」
「御意」
 頭を深く垂れるのは、黒鎧の騎士だ。既に自らの同胞が五十も死んでいるというのに、表情を変える気配すらない。
 何故なら、彼の称号は『無尽』。
 尽きる事無き同胞の中、五十の死など眉を動かす程にも値せぬ。
 そして、フォルミカは残る五十の同胞に指示を送った。


 双剣を受け止めていた赤い獣機は、『その声』を聞いて一気に離脱。十分な間合を取り、剣を構え直す。
「何だ……?」
 渦巻く黒羽根から身を守り、隙をうかがっていた赤い獣機は、『その声』を聞いて隙をうかがう事を放棄した。
 翼を広げ、黒羽根の射程圏外へ飛翔する。
「む……?」
 赤き鎧の狂戦士と戦っていた赤い獣機達は、『その声』に示し合わせたように盾を構え、斬撃からの防御を最優先に動く。
「……どうした。もう終わりか?」
 重装獣機に弾き飛ばされ、細槍で貫かれた赤い獣機は、『その声』を聞いて損傷度合いを素早く確認した。
 致命傷に至っていない事を見取ると、重装獣機達が進むための道を自ら空けてやる。
「今のうちだ! 一気に城に入る!」
 双銃に片腕を吹き飛ばされた獣機は、『その声』を確かめると同時、そのまま倒れ込み、動きを止めた。
 操縦席の中、握っていた操縦桿からゆっくりと手を離す。
「倒し……たのか?」
「いや……」
「まさか……」
 そして、五十の彼らは同時にその言葉を叫んだ。
 相対する者を絶望の底に叩き込む、圧倒の一言を。
「超獣甲!」
 広い戦場に五十の火柱が上がり、続く五十の爆裂が戦況を一気に逆転させていく。



続劇
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