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 そこにあるのは、戦場には似つかわしくない光景だった。
「アルジオーペから届いたのが、これか」
 並ぶのは年端もいかぬ少女達。十列十人、百人の少女が一部の乱れもなく並ぶ様子は、一種異様なものを感じさせる。
 だが、それに輪を掛けて異様だったのは、百人の少女達全てが全く同じ顔だったことだ。
「「そうよ、フォルミカ」」
 百人の少女達を指揮する双子の女は、黒鎧の青年の問いに宛然と笑ってみせる。
 青年の後ろに並ぶのも、同じ黒鎧をまとった百人の騎士達だ。しかし、こちらは揃いの兜で頭を覆っているため、同じ表情で並ぶ少女達や、同じ動作で喋る双子ほどの異質さはない。
「「レヴィー・マーキスの創り上げた次世代獣機・ヴァーミリオン。その完成型」」
 百体の完成型。
 グルヴェア攻略の最終段階にようやく届いたそれを、黒鎧の青年は満足げに眺める。
「ロード・シュライヴは?」
「「レッド・リアは修理完了。オルタ・リングもレヴィー・マーキスの説得を受け入れたそうよ。後は、時が満ちるのを待つのみ……」」
 それも、あと半日と無いだろう。
 攻城戦が終わる頃には、全ては終わるはず。
 いや、始まりと言った方がよいか。
「「城内の工作には貝の子が入っているわ。巧くおやりなさい」」
「ならば、有り難く使わせてもらうとしよう」
 フォルミカの言葉と共に、彼の後ろに並ぶ騎士達が一斉に兜を引き上げる。
 そこに並ぶのは、全く同じ作り、同じ表情の、百の男の顔だった。


ねこみみ冒険活劇びーわな
Excite NaTS "Second Stage"
獣甲ビーファイター
#5  レッド・リア浮上(後編)

7.決戦前瞬

 戦場は、常に喧噪に包まれている。
 敵味方が戦う音。兵士達の進む音。休息の時でさえ、歩哨の足音や、だらしない兵士のいびきなど、音が絶える事はない。
 だが。
 ほんのわずかだけ、一切の音が止まる瞬間がある。
 戦の始まる一瞬前。
 突撃の命令が下され、鬨の声があがる、その直前にだけは。弓が引き絞られたような。張りつめた沈黙が、辺りを支配する。
「シグ。昔さ……」
 その沈黙の中で。
 声があるのは、巨大な装甲兵の操縦席の中だけだった。
「にゃ?」
 既にシグは獣機形態に移行している。グルヴェア防衛部隊の右翼側。両手に剣を構え、相手の動きを見据える位置に、立っている。
「姉さんが、鳥の模型を作ってくれたんだ」
 敵さえも動きを止める中。
「上手く出来てるハズなんだけど、変な話、姉さんが飛ばすと上手く飛ばないんだよね」
 ベネの言葉だけが、シグの操縦席に静かに響く。
「へぇー」
「飛ばすのだけは私の方が巧くてね。結局、ケンカになっちゃってさ……」
「お母様におこられたの?」
 シグの言葉に、ベネは苦笑。
「そりゃもう、こっぴどくね」
 何せ、今でも覚えているほどだ。叱られた内容は覚えていないが、相当酷く叱られたらしい。
「珍しいね。ベネが昔の事を話すなんて」
 広くもない操縦席の中で、小さなアラームが主に呼びかけている。
「私だって感傷的になる時くらいあるさ……」
 敵の動きを伝えるそれに簡潔に答えておいて、ベネは操縦桿に手を掛けた。
「それに、こうやって話しておけば、アンタが覚えといてくれるだろ?」
「ベネ……」
「今日は本気で行かないと拙そうだからね」
 それは、娘の決意の証。
 進撃の一言と共に、緩んでいた意識を戦場のそれに切り替える。
「シグ、敵兵力は」
「敵左翼は歩兵五千、獣機三十ってとこかな」
 正面に映し出されるのは、アークウィパス戦で赤の後継者達が使っていた獣機だ。
「例の赤い奴か……手加減してる余裕はないね。シグ」
「うん!」
 動き出した赤い獣機達に合わせ、こちらも進撃を開始する。
「三番隊ベネンチーナだ! これより敵獣機部隊と接敵する。後詰めに早く来いと伝えろ!」
 そして、戦いは始まった。


 グルヴェアには塔が多い。
「将軍っ!」
 見張り塔のふもと、戦場を見渡せる城門上で、フェーラジンカは報告の声を片手で制した。
「報告では聞いていたが、まさかこれ程とはな……」
 コルベットの陣に並ぶ獣機は、ひと目見ただけでゆうに百を超えているのが分かる。それも、グルーヴェの制式獣機であるギリューはほんのわずかで、以前コルベットが持っていた赤い獣機が戦力の大半を占めているのだ。
「クワトロ、クロウザ。あの赤いのに見覚えは?」
 獣機が発掘されるのは、スクメギとアークウィパス、後はエノクの一部だけ。
 そのうち、アークウィパスで発掘された覚えがないとすれば……。
「東方や旅先では見た事がないな」
「ココやエノクの獣機でもない。一体どこから持ってきたものか……」
 だが、他国の獣機事情を知る二人は、揃って首を横に振った。
「こちらの獣機は?」
「予備機を入れても、四十騎ほどかと……」
 既に三十騎は各陣に配備され、コルベットの前衛とぶつかっている。後詰めの十騎を出してしまえば、それで手持ちの獣機は打ち止めだ。
「泉討伐に出し過ぎたか……。後続の出撃状況は?」
 愚痴りはするが、泉の対処はグルーヴェ軍の最重要事項だ。いくら悔いても仕方ない以上、最善を尽くすしかない。
「遅れているようです。イシェファゾ殿が様子を見に行っていますが……」
 そのイシェからも、連絡がない。工廠に着けば、連絡の一つも送ってきそうなものだが。
「とりあえず、俺も出よう」
「お願いします」
 中央の守備部隊が敵の前衛とぶつかったのを見て、クワトロが城門を駆け出した。小柄な娘が後を追って走り出し、城門から一気に跳躍する。
 その瞬間。
「……爆発!?」
 グルヴェア市街のさらに奥。一際高くそびえる塔の麓に、炎の塊が膨れあがる。
「クロウザ!」
 フェーラジンカが叫んだ時、黒外套の男は既にその場にいない。



続劇
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