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4.転章・決戦のシーレア高原

「……そう。ご苦労様」
 報告を受けると、アリスはクッションの効いた椅子に身を預け、深いため息を吐いた。
「聞いての通り、スクメギに入った賊の討伐は失敗したそうよ。ご丁寧に、次の犯行予告までもらってね」
 部屋に集まっているのは無論、プリンセスガードの面々だ。いつもと一つだけ違うのは、アリスのガードだけではなく、シーラに仕える者や、イルシャナとその仲間達もいるという事か。
「リヴェーダやキッドは?」
 一同を代表して、イルシャナが口を開いた。
「死人は幸い無かったようね。ただ、しばらくは治療の為に動けないそうだけど」
 本来指揮を執るはずのシーラとアルドは、戴冠式を明日に控えた身だ。主役が式典の準備に参加しないわけにもいかず、こうして次女である彼女がシーラの代役に立っている。
「安心するのはまだ早いわよ」
 あちこちで安堵の声が上がるのを聞き、軽く手を叩いて静止。
「相手は次の犯行予告を残していったわ。報告も既に入っている。ナコココ!」
 アリスが軽く手を振ると、猫族の娘がぱたぱたと掛けてきて執務机の上にばっと地図を拡げた。
 羽根ペンを執り、その上に大きな円を描くアリス。
「シーレア高原で大規模な魔物の発生が確認されているわ。シーレアに赤い泉や黄金の遺跡は無かったはずだけど……皆、心当たりはあるわね?」
 その言葉に、場にいた者達の多くが静かに頷いた。
 うち半分はシーレア高原の状況を思い出して頷いた、アリスのプリンセスガード。
 残る半分は、泉無しに魔物を呼び寄せる敵を思い出した、シーラのプリンセスガード。
「第一目標はこの魔物達の討伐。それと賊の迎撃ね。最悪、追い返すだけでも構わないけれど……我が国の民には指一本、触れさせないで」
 王宮には、戴冠式を前に各国の要人が顔を揃えている。王都にはもちろん、ココ王国の民が居る。王宮だけ護ればいいなどと考える愚か者は、この場所にはいなかった。
「メティシスとアノニィ、だったかしら?」
「はい」
「はい」
 アリスに呼ばれ、イルシャナの後に控えていた二人の子供が前に進み出た。
 人類の始祖に近い存在だと報告を受けていたが、アリスには二人ともただの少年少女にしか見えない。
「貴方達は一足先にスクメギに戻ってもらえないかしら。本当なら水の都や王宮をゆっくり楽しんで欲しい所だけれど……スクメギから何が奪われたか分かるのは、きっと貴方達だけだから」
 それぞれ首を縦に振り、アリスの意を承諾する。
「それからシェティス」
「はっ」
 次に進み出たのは、グルーヴェの軍服をまとった少女将校だった。
「グルーヴェの親書の件はこの戦いと戴冠式が終わってから、落ち着いて検討させてもらうわ。私一人で判断して良い事ではないから」
「了解です」
 再びの敬礼にアリスは苦笑。ココには敬礼という習慣がほとんどないから、シェティスの生真面目な態度はどこか落ち着かない。
「最後に大事な事を伝えるわ。この戦いを私やイルシャナは指揮出来ない」
 意外にも、その言葉に一同は動じなかった。
「まあ、予想出来てましたから」
 アリスもイルシャナもココ王国のトップに位置する者達だ。そんな彼女達が戴冠式を戦争で欠席したとなれば、客や国民に無用の不安を抱かせてしまう。
 時には前線に出ない事が一番の選択になる事もあるのだ。彼女達には。
「ただし、あなた達は他のどの隊の指揮系統にも組み込まないわ。これは姉様や他の皆とも一致した意見よ」
「それだけしてくれれば、十分だね」
「というわけで、作戦も任せるわ。やりやすいようにやって頂戴。私達は、貴方達が期待通りの働きをして、無事に戻ってきてくれる事を期待する。以上よ」



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