手向けられたのは花束と、ワインの入った小さな瓶だ。
「伯母さん……。それじゃ、行くね」
呟くのは一人の娘。腰には矢筒と、折り畳み式の小さな弓が提げられている。
対する伯母からの答えはない。
聞こえるのは、脇にある小さな川……ブレティニー川のせせらぎだけだ。
だが、娘は彼女からの答えを聞くように墓標の前でしばらく目を閉じて……やがて、静かに瞳を開く。
「……ごめんね。伯母さんは許せって笑うだろうけど、やっぱりアイツは、許せない」
彼女が流行病に倒れた時も、今際の時も、葬儀の時も。
彼は、帰っては来なかった。
もともと旅がちな男ではあったのだ。命がけの、そして長期に渡る探索で、数年に渡って帰って来ない事も珍しくはなかった。
娘が彼と一緒に過ごした月日は、恐らく数えるほどしかない。
だが。
よりにもよって、このタイミングでなどと……。
それに今回の探索は、さして時間は掛からない、規模の小さな探索だと言っていたのに。
「勇者の剣の勇者だなんて……何が勇者よ」
勇者なら、どうして一番身近な者を救ってくれなかったのか。
彼女は最期まで笑っていたけれど、心の中では彼に戻ってきて欲しかったはずだ。彼女を入れれば二人だけの肉親である、彼に。
そして、何より……。
誰一人として身寄りの無いまま、事後の処理も、屋敷の処分も、全て娘のあずかり知らぬ所で行われてしまった。もしその場に彼が居たなら状況は違っていたはずだが、それはまだ年若い娘の力と経験では遠く及ばぬ事だった。
その想いを感じ取れなくて……何が勇者か。
「絶対に見つけて、伯母さんに謝らせてやるからね」
そして、娘は旅に出た。
その探索が例え何年、何十年……いや、何百年かかったとしても、やめるつもりなど……ない。
Bre/Bre/Bre
[4/6]
|