燃えさかる炎の中、黒煙を抜けて響くのは硬質なものがぶつかり合う音。
続けざまに打ち交わされる、剣戟の音だ。
「どうして……あんな事を!」
叫びと共に放たれるのは、研ぎ澄まされた剣の一撃。
「……あいつも望んだ事だからだ」
受け流すのは、古木から削り出された杖である。
「だが案ずるな。既に改善は成され、成功もしている。これで、貴様にも同じ儀式を……」
「違う! 俺が言いたいのは……そういう事じゃないっ!」
繰り出される青年の斬撃を、フードを目深に被った魔術師の男は次々と受け止めていく。
ただの古木が鉄をも切り裂く斬撃を受け、流せるのは、まとわせた紅の揺らめき……魔法の力あってこそ。そして次々と繰り出される目にも留まらぬ連撃に対応出来るのも、瞳にたゆたう蒼い輝きがあるからこそ。
「ならばどうする? いかに貴様でも、剣如きで俺を抜けはせんぞ」
ひときわ強く炎の爆ぜる音と共に辺りを揺らすのは、何かが崩れる轟音だ。
恐らくは屋敷の何処かが焼け落ちたのだろう。
だがそれでも、魔術師の口元に一切の焦りは見られない。
それは、盟友たる青年には自らの事のように分かるものだ。
しかし、だからこそ……青年には、魔術師の心の内が納得出来ずにいる。
「分かってる! けど……貴様だけは、この剣のみで……!」
血の滲む鍛錬と研鑽を重ね、幾多の実戦による経験で裏打ちし、ついには王国に伝わる剣を手にして『勇者』と讃えられながらも……膨大な魔力と術式によって底上げされた反応速度と防御には叶わないのか。
燃えさかる屋敷の限界は近い。目の前の魔術師はその一切を気にする様子もないが、辺りの焼け焦げる悪臭と炎の熱、何より崩壊の轟音は、勇者の神経をじりじりと蝕んでいく。
「俺の力で勇者になった男が何を言う!」
「だからだ! 世界の法則をこれ以上ねじ曲げるな……盟友!」
剣を構えた勇者は、ぎりとその歯を食いしばり。
放つのは、全霊を注ぎ込んだ咆哮だ。
同時に、板張りの床が炎の舌に舐め尽くされて。
剣戟の音は、崩壊の轟音にかき消されていく。
Bre/Bre/Bre [1/6]
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