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読者参加型プライベート・リアクション
ユノス=クラウディア
第5話 そして……(その14)



Act:6 大崩壊

 ごぉぉぉぉぉぉん!
「きゃぁっ!」
 激しく揺れる大地。
 流石に今度の激しい揺れにはラミュエルも運んでいた皿を落としてしまった。だが、
今はそんなものに構っている暇はない。とりあえず、自分の体のバランスを取るのだ
けで精一杯だ。
 ぉぉぉぉん…………
「な、何か……凄い揺れでしたね」
 ようやく収まった揺れに、広げていた翼をたたみながら呟くラミュエル。
「姉上、大丈夫でしたか?」
 と、二階へ続く階段の方から一人の少年の声が聞こえてきた。彼女の弟の、キルシ
ュエルだ。
「ええ。大丈夫……って、キルシュエル、どうしたの?」
 彼は今、姉の呪いを抑える効果を持った髪飾りにヴァートを送り込んでいる最中だ
ったはず。施術の儀式で三日は部屋から出られないはずだったが……。
「どうしたのじゃありませんよ。結界を通り抜けるほど強い地震があったのに……。
儀式の集中も途切れちゃいましたし、またやり直しです」
 要するに、心配になったという事なのだろう。家族思いの弟に嬉しく思う反面、呪
いの解決はまた先送り……という嬉しいやら哀しいやらな状況に、ラミュエルは何と
も微妙な笑みを浮かべる。
「すまん。ちょっとどいてくれるか?」
 そんな姉弟の和やかな会話に、割り込まれた声。
「あ、どうも、すいません」
 2階から下る階段の途中で話をしていたから、後ろの客の邪魔になっていたらしい。
キルシュエルは180を越えるラミュエルや母親と違って小柄な体格だったが、それ
でも巨大な翼がある。氷の大地亭の階段は決して狭いわけではなかったが……後ろの
客の巨躯からすれば、その脇をすり抜ける、というわけにもいかなかったのだろう。
「ヴァイスさん。ヴァイスさんは大丈夫でしたか? 今の地震……」
 一階でもあれだけ揺れたのだから、階上ではもっとひどい事になっているに違いな
い。後片付けでクローネ達は大変だろうな……と、これから厨房の片付けをしなけれ
ばならないであろうラミュエルは思った。
「ああ。俺は大丈夫なんだが……」
 ラミュエルに答える男……ヴァイスの声は、重い。
「こいつが……な」
 ふと見ると、ヴァイスの背中には誰かが背負われていた。
 背負われているのは何とも形容しがたい格好……ラミュエルが頬を僅かに染め、法
術使いであるキルシュエル少年に至っては顔を真っ赤にして眼を背けた……をした美
しい女。
 ただ、辺りのものに見境なく噛みつきそうな程に不機嫌な表情をしているのと、何
があったのか頭の上にはばかでっかいタンコブがくっついているのが……何ともミス
マッチであったが。
「そういうわけで、チェックアウトを頼む……」
 仏頂面の中にもそこはかとない哀愁を漂わせ、ヴァイスはぽつりと呟いた。彼の背
中にさも当然というふうに居座っているぼんてーじふぁっしょんのねーちゃんとの関
係は、想像に難くない。
 ぉぉぉん…………
「あ、また揺れ……」
 そして。
 この余震を最後に、霧の大地からは地震がふつと消えた。


「何だか……凄いことになってますねぇ……」
 激しい地鳴りの中、緊迫感もへったくれもないようなのんびりとした口調でそうい
ったのは、フォル。ベースを呑気にうろちょろしていたらしい彼は、この時点でよう
やく神殿へとたどり着いていたのだ。
「貴様! 今まで一体何を遊んでいたのだ! この地に関しての知識があるからと黙
っておれば役にも立たぬ……。とりあえず、こやつらを脱出させるのを手伝え!」
 爆発した怒りは『自称』鋼の自制心でその辺にうっちゃっておいて、カイラは相変
わらず目覚める気配のない二人と満身創痍のマナトを指差す。小柄なユウマくらいな
らレーヴァの手を借りれば何とかなるだろうが、後の大人二人はどうにもならない。
「いくら僕でも、マナト氏とジェノサリア嬢の二人も運べませんよ……」
 お世辞にも逞しいとは言えない腕をわざわざ巻くって見せ、フォルはトホホな苦笑
を浮かべた。
「それよりも僕はちょっと大事な約束があるので、これにて失礼っ」
 たっと身を翻して神殿に向かって走り出すフォル。
「約束……だと? あ、おい待て、この学者バカっ!」
 慌てて伸ばしたカイラの腕をするりと躱し、フォルはそのまま神殿の中へと走って
行ってしまった。


「やだやだ、ルゥ、絶対ここで待ってるの!」
 頑として逃げる様子を見せないルゥに、シュナイトは困り果てていた。
「ご主人さま、ルゥと約束したもんっ! 絶対、絶対戻って来るって!」
 そう言って泣き叫ぶルゥには、さすがのレリエルも強く言い出せない。
 ルゥのご主人さま……ユノスが玉座の間の奥にある縦坑に入った事は、その役目を
任されたルゥから聞いていた。だが、その縦坑からは凄まじい熱気が立ち上って来て
いて近寄ることすら既に不可能となっている。足下は巨大な火山脈なのだから当然と
いえば当然なのだが、これでは空を飛べるレリエルやザキエルでも「ちょっと行って
様子を見てくる」というわけにはいかない。
「ルゥちゃん……よく、聞いてね?」
 そこに至って、今まで黙っていたティウィンがようやく口を開いた。
 ルゥの涙の浮かんだ瞳を正面から見つめ、優しく諭す。
「ここはね、とっても危ないんだ。もしかしたら、今すぐにでも炎がやってきて、み
んな死んじゃうくらい。分かる?」
 こくりと頷くルゥに、少年は言葉を続ける。
「だから、ここで待ってるのはユノスちゃんも危ないって事なんだ。ユノスちゃんが
危ない目に遭うのは、嫌でしょ?」
「やだ……」
「ルゥちゃん。これから兄様やレリエルさんと、安全な所でユノスちゃんを待ってて
くれるかな? ユノスちゃんには、僕が伝えに行ってあげる」
「ティウィンさん……が?」
 小さく繰り返すルゥにしっかりと首を縦に振る、少年。その瞳は優しく、強い決意
に満ちている。
 その決意を覆す事、何人にも叶う事値わず。
「……分かった」
 ぽつりと呟いたシュナイトの真剣な瞳に、ティウィンは決意を込めて頷く。
「もう、誰も死なせたくないから……。もちろん、僕もまだ死ぬわけには行かないけ
どね。ザキエル、君も待っててくれる?」
 厳しい表情を浮かべているシュナイトに笑顔を返すティウィンに、彼の守護天使は
悲鳴に近い声を上げた。
「マスター!」
「大丈夫。僕は…… !」
 泣き出してしまった小さな少女の蒼い髪ゆっくりと手を伸ばし、そっと軽く撫でて
やる。ゆっくりとその手を何度か往復させ……少年は突然、がくりと崩れ落ちた。
 その細い体に、漆黒の少年からの当て身を叩き込まれて。
「レリエル! お前何を!」
「…気に食わねえんだよ。そういう、後の奴が後味悪いの」
 受け止めたティウィンをシュナイトに預け、夜の天使は相変わらずの不機嫌そうな
表情を浮かべた。
「大将が機嫌悪いのも見てていい気分じゃねえしな。癪だけど俺が行ってやるよ。ち
ょいちょいっと……な」
 だが。
「いえ。彼女への伝言は、僕が行って来ますよ。シュナイト君たちは外で動けないジ
ェノサリアさん達を運んであげて下さい。僕の力では、彼女達を運べないもので……」
 いつの間に入り込んだのか。
 玉座の巨柱の前に立つのは、白き髪の青年。
「おじちゃん! ご主人さまを……おねがい!」
「おじ……ま、まあ、いいでしょう。とにかく私も約束がありますし、ちょっと行っ
てきますよ。皆さんも早く脱出して下さい」
 ルゥの悲痛とも言える叫びに、何とも言えない微妙な表情を浮かべ。
「そうそう。ティウィン君に伝えておいて下さい。『彼』に頼まれたのは、あなただ
けじゃありませんよ……ってね」
 熱くなってしまった金属製の眼鏡を懐にしまったフォリントはそう言うと、熱気渦
巻く縦坑へひらりと身を踊らせた。
続劇
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