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読者参加型プライベート・リアクション
ユノス=クラウディア
第5話 そして……(その9)



「ラーミィよ、好きな男の為に頑張ろうという健気な考えは立派だ。十分に共感でき
る。それは、私も心より応援しよう」
「あ、あの……」
 突然現れ、ポケットに手を伸ばした自分に見事なまでのタイミングでツッコミをぶ
ちかまし、さらに説教まで始めてしまった女性に、ラーミィは思いっきり困惑してい
た。
「カイラさん、もっと向こうの方で戦ってたんじゃ……?」
 確かカイラはユノス達が神殿へ行く手伝いをしに、神殿の近くで適当に陽動作戦を
行っているはずだ。それが、何故こんな神殿方面とは全然違う場所で自分に説教をぶ
ちかましているのだろう。
「……だが、薬はいかんぞ、薬は。魔剣や闇の力もそうだが、特に薬などという安易
な手段に頼ろうとする輩は必ず手痛いしっぺ返しが来る。現に私は何人そんな奴らを
見てきたことか。あやつらの……」
 全然聞いてない。
「しょうがあらへんて。ここは犬に噛まれたと思うて……」
 と、今までどこに隠れていたのか、どこからともなく現れた謎の物体がラーミィの
肩をぽんと叩いた。
「おう、ポッケか。丁度良い。お主の生活態度にも、言いたい事があったのだ。そも
そも楽して儲けようなどと……」
 そのポッケをひょいと捕まえ、ラーミィの隣にちょこんと座らせるカイラ。見てい
るところはちゃんと見ているらしい。本当はキチンと正座させたい気分のようだった
が、ポッケの足の構造はそう言う風に出来ていないので仕方なく置くだけに留めた。
「そもそもだな、自分のもともとの力よりも強い力というものは何らかの危険性を秘
めているものなのだ。それを容易に使おうなどと……」
「あの、カイラはん?」
 さっき融魔に説教を中断されてしまったから、ストレスがたまっているのだろう。
まさに水を得た魚といったカンジでお説教を続けるカイラ。
「後ろ、ちっとヤバいようなんやけど……」
 カイラの後ろには、剣を構えたディルハムが立っていた。アズマとシュケルにディ
ルハム達のほとんどが襲いかかっていて両者まさに地獄絵図といった風な戦況なのだ
が、ディルハムにも知恵者というヤツがいるのだろう。
 と、思ってる間にディルハムの一騎は剣を振り上げ……
 ぱかぁんっ!
 カイラのふと力を込めて放たれた拳に、しばき倒されてしまった。しばき倒された
ディルハムは同時に叩き込まれた炎の一撃に内部の水を沸騰させながら、闘技場の壁
にそのままぶち込まれ……動作を、止める。
「見ろ。長年力を溜めた努力の結果とはいえ、普通の人間である私も出そうと思えば
自分の力だけでこれだけの力が出せるのだ。だがな、ラーミィ。お前には『愛』とい
う素晴らしい感情がある。それを使えば、今の私の力など足下にも…」
「……愛?」
 そのたった一言に、ラーミィは激しく反応した。
「そうだよね、カイラさん。愛が有れば、こんな薬なんかに頼る必要……ないよね!」
「ああ、そうだ、ラーミィ! 愛が有れば、そんな薬など!」
 にっこりと笑ったラーミィに、うんうんと満足そうに頷くカイラ。お説教が功を奏
し(たと、彼女は固く信じている)、見事に更正してくれたラーミィを見るのが嬉し
いのだろう。
「なら…………お願いっ!」
 ごうんっ!
 ラーミィの精霊に呼びかける声に答え、すっと伸ばした手の先に現れたのは……巨
大な石の壁。今彼女達が戦っている闘技場の床は全部磨かれた石床で出来ているから、
石の源には事欠かない。
 いや、飛び出たのは、少女の目の前からだけではなかった。
 そこかしこから無数の石の壁が生まれ、ある物はディルハム達を押し潰し、ある物
はアズマを背後から狙うディルハムの凶刃を受け止め、またある物はシュケルを狙お
うとして……逆に破壊される。今までフラットだった円形闘技場は、一瞬にして巨大
な石壁の林立する異様な空間へとその姿を変えたのだ!
 暴走した(勘違いした)愛の力、恐るべし……と、ラーミィの隣で大人しくしてい
たポッケは思った。
 そして。
「うむ。見事だ」
 そのまま再びどこかに行ってしまったカイラと、『愛かぁ……うん、やっぱり愛よ
ね』と一人でトリップしているラーミィと、応援も来ず、残骸しか残っていないディ
ルハムと、長時間の戦いで乱れた呼吸を整えているとアズマと、残ったわずかなディ
ルハムをばすばす狩っていくシュケル。
「…ま、ええか。ディルハムもおらんようなった事やし」
 一人だけする事もなく取り残された形のポッケは、ぽつりとそう呟いていた。


「私……ですか?」
「バベジ様は、ここの動力で生きておられるのですよね?」
 では、動力を切られた後はバベジの存在はどうなってしまうのか。それがザキエル
には気になったのである。
「え? それは……何かちゃんと手段があるんでしょう? ディルハム達みたいに、
眠るだけだとか……」
 そうに違いない、と、ティウィンは思っていた。だからこそ、レバーの封印を解き、
レバーを引こうとしたのだ。
 そう。そうでなければ、自分の命を絶つような手段を取るはずがない。
「………………」
 だが、バベジは答えなかった。
「バベジさん。あるんでしょ? ちゃんと助かる手段が…」
 またもや、沈黙。
「ザキエル嬢。あなたは、自分の大切な人……例えば、そこの貴方の主が危機に陥っ
ている時、どうしますか?」
 ようやくバベジが放った言葉は、先程の質問とは全く異なるものだった。
「絶対に助けに行きます」
 一寸の迷いもなく答えるザキエルに、バベジは次の質問をぶつける。
「それが、どんな危険な場所でも、ですか? 例えば、そこが間違いなく死ぬと分か
っている場所であっても……」
「…………まさか……バベジさん」
 息を呑むティウィンに、バベジは先程と同じ穏やかな笑みを浮かべるのみ。その表
情には悲壮感や使命感といったものは、全くと言っていいほど感じられない。
 あるのはただ、どこまでもどこまでも穏やかな表情のみ。
「私は形を備えたディルハムと違い、形のない存在ですから。多分、ベースの動力が
途切れたら消えてしまうでしょう」
 神殿にバベジ本体のある状態であれば、あるいは何とかなるかもしれない。だが、
本体は『あいつ』に抑えられている。
 一刻を争う今、そしてディルハムも神殿も何ともならない今、彼に出来る事は……
「姫やこの霧の大地を守る事は、私の誇りなのです。それが私を産んでくれた方との
約束でもありますし……何より私は、その為に生まれてきたのですから……」
 彼は、この『霧の大地』を護る神なのだ。神としての力を失い、亡霊のごとき存在
になったとは言え、それは揺るぎ無い真実。
「ティウィン君…お願いします。手遅れにならないうちに」
 そして。
「……分かりました」
 顔を伏せたままでティウィンはそう呟くと、その手をゆっくりとレバーに掛けた。
「マスター……。ザキエルも、一緒に……」
 顔を見せない少年の震える手に、ザキエルもそっと小さな手を重ね合わせる。
「ティウィン君、ザキエル嬢。最後に、あなた方のような方達と話せて……嬉しかっ
たですよ。私を大切に想ってくれた我が主や、姫と話しているようでした」
 彼の穏やかな言葉が響き渡る中、辺りに立ちこめていた霧がゆっくりと晴れていっ
た。
続劇
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